4
side 語尾くせ店員
脱兎のごとく一瞬で店から消えた異様に顔の整った犬?狼耳を付けた男と異様なだけの猫メイド。バタバタと忙しなく入店し、食し、そして退店して行った謎の二人組。
入って来た時から言葉にはならない何かを感じていた。
そしてあの猫メイドの貧相な上裸はどうでもいいが、金髪の男の背を見てはっきりと答えが出た。
「…魔王だ〜ぁ」
鎮まり返った店内に反し、僕の小さな呟きが大きく聞こえた。
間違いない。孤児だった僕が暮らしていた教会で何度も何度も絵本代わりに繰り返し読んだ聖典。そこには神や妖精、世界を滅ぼす魔王や下水楼を救う勇者の話など様々な物語が描かれた数十冊にも及ぶ本。
その内の一冊に描かれた魔王に現れる紋章を確かに見たことがある。
あの男の背に白く淡く光る大虎の模様。
とうとう現れたんだ、この下水楼を滅ぼす魔王が。
聖典の魔王の物語では、トレスティアルヘルからの魔王の降臨、そして何者かに配下を殺された怨みから覚醒しこの下水楼を滅ぼしてしまう、そして最後は勇者によって滅される…。
魔王が聖典の物語通り現れたのなら、魔王の降臨と共に何処かで勇者も同じくこの世界に誕生したはずだ。
…だけど、知っていても僕に出来ることは何もない。
だって俺はしがないただのチョコフォンデュのアルバイト店員なのだから。
店にいたお客様の中で気付く者も多く2人が去って暫く、店内が悲鳴で阿鼻叫喚に満たされる。焦って騒いでもどうしようもない。もう魔王は存在してしまっているのだ。
店を出ようと会計に我先にと押し掛けるお客様らを捌きながら、今日は早めに仕事を上がれそうだ、と恐怖に呑まれることがないようにと思考を飛ばすのだった。




