3
雑草共の隠れ家は突き止めた。だが物理的に手が出せない。我が天敵ながらあっぱれ…見事な身の隠し場所を見つけやがったな。
これじゃスタホの画面を叩き割って引きづり出すことも、俺の覚えたての魔法で燃やすことも出来ない。
そんなことをしようとする素ぶりを察知されると最強の魔王が立ち塞がるだろう。ミントを害させない為に。
俺が手出し出来ないのを良いことに、画面の中ではさっきまでは静止画だったくせに今はブレブレの高速で踊り狂う雑草共。
「覚えてろよ…いつか絶対ありとあらゆる思いつく限りの仕返ししてやるからなッ!」
「…とにかく座れ。悪目立ちしてるし、腹減った」
スッとテーブルに備え付けの椅子に座り、長い足をテーブル下に納める。それに倣い渋々俺も席に着いた。
テーブルにはギリ乗るだけの沢山の見たこともないフルーツにパン、これ以上どこにチョコを付けるつもりなのかと思うような甘味の数々。
テーブルの中心で垂れ流れている3段滝のチョコレートがモンスターに見えて来る。
…いや、モンスターはこの甘味のおしくらまんじゅうを輝く瞳で見、ものすごい勢いで頬張り始めた涼か……。
……気持ち悪ッ。
俺はチョコレートの滝と涼は視界に入れないようにしつつ、謎のフルーツとパンを食べることに専念するのだった。
見るだけで胸焼けしそうな甘党の魔王に、不意にミント越しに飛んで来る謎の種子との攻防に疲弊し、ただただ苦痛な食事を済ませて店を出ようとした俺達はある事に気付いた。
「…涼」
「お前も気付いたか、優也」
「「……金がねぇ」」
どうしよぉお!?逃げる?逃げちゃう!?
…いや、無理だ。俺の鈍足じゃ店を出ることすら難しい。俺達は仮にも釈放された指名手配犯とこの国の女王様お墨付きの魔王の一行だ。捕まったら今度こそ処刑待った無しだ…。
かくなる上は……
「涼…覚悟を決めるしかない」
「あぁ。軽くストレッチしたら一気に…」
「身体で払うしかないッ…脱ぐんだ、涼ッ!!」
「…は?ちょやめろ馬鹿ッ…」
俺は困惑する涼に飛びかかり、上半身に纏う制服を問答無用でむしり取って行く。
お前のその運動部で鍛え上げた肉体美は俺達が飲み食いした金額を超えるッ!
さぁ、涼。見せつけてやれッ!
この店にいる全ての人達を出血多量で失神させ、その隙に俺の鈍足で逃げ切るんだッ!!
「見やがれッ!俺と俺の自慢の親友の素晴らしいお身体、ご尊体をッ!!」
シーーーン……
店内が水を打ったように鎮まりかえる。
店内全ての視線を集めて動きを止めることは出来たけど…何この空気。きゃーっ素敵〜っ、の黄色い声は?
…なんか思ってたのと違う……何で?
訳がわからず涼をチラリと見るが、そこには素晴らしい上半身を惜しみなく曝け出し、さも自信満々に立っていると予測していたが何故か左手で顔面を抑え微妙な顔。
…なんか思ってたのと違う……何で??
「……何でお前まで脱いでんの?」
「涼1人じゃ流石に可哀想かなぁーって…ダメだった…?」
「…とにかく逃げるぞ」
俺を小脇に抱える前に、自分の肌け落ちていた制服の胸ポケットから紙とボールペンを出し、何やら一筆書いて近くにいたあの語尾の主張の激しい店員さんに渡すと俺を抱え、目にも止まらぬ速さで店を駆け出た。
俺、文字通りお荷物扱いだな。なんて冷静に考えられるくらいには何が起こったのかも分からないまま理解も追いつかずされるがままだった。
とりあえず……無銭飲食誤魔化し逃亡作戦、成功ッ!!
おめでとう、俺ッ!お疲れ様、優也ッ!!
「大失敗だッ!!この馬鹿ッ!!」
涼はその後もこの大馬鹿がッ、とかもういっそ捨て置くか…とか聞き捨てならない悪態を吐きながらも、俺の重さをものともせず疾風の勢いで走る。
俺は空気読めるからな。ここでこの悪態にツッコむ、なんて野暮な事はしない。
…本当にこの場に捨て置かれる気がする…。
ここは大人しく黙って抱えられて逃走先の目的地が暗黒の魔王城でないことを願うばかりだ。




