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千紗父が下水楼に堕ちたのは、もうトレヘル単位で200年以上も前のことらしい。
不思議なことに下水楼に来てからは歳をとることもなくそのままの姿であり続け、今に至るそうなのだがこの歳をとらない身体のせいでトレヘルの住人だった者だと下水楼の者達には迫害され続けた。
そしてそんな千紗父と同じようにこの世界に来たトレヘル民はあの、俺らの起こした?山火事で焼失したあの藁村に隠れ棲むようになったがいつしか皆散り散りに何処かへと姿を消していき千紗父だけが残されたのだそう。
千紗父もこの地を離れようと思ったらしいのだが、離れられない理由が1つ。
何故か総じて新しいトレヘルの民が現れるのがあの藁村周辺なのだそうで、新規のトレヘル民にこの下水楼の常識や生きるすべを教える為にこの地へ1人残り続けたのだそうだ。
まぁ、開きっぱなしの卍ホールからみんな落ちて来たと仮定するなら同じような場所に現れるトレヘル民の謎も解けたようなもんだけどな。
「で、色々あって今やあの藁屋に娘と息子を置いて自分は大都市フォンデュ国で商人となりました、めでたしめで…」
「…たくないよぉ!?千紗と平喜があの村に住むのは止めたんだけど、私と同じ屋根の下で暮らすくらいならあの、ヒック…藁村に、グスッ住むってぇえ出て行ったのぉっ!!!ヒック」
「…しょうがないでしょ。言動が気持ち悪いんだから」
ひでぇ…。
…やっぱり苦労してたんだな、千紗父…。なんか出てるもん、不幸オーラ?っての?
…優しくしよう。
先程のシリアスな空気は何処へやら。千紗父の千紗へのあの日への泣き抗議と冷たくあしらう千紗との問答が暫く続いたのだった。
「…ゲフン。さて話を本題に戻そうか」
「だから無理だって。ダンディ路線」
さっきまで千紗の足に縋り付いて泣いてたくせに。この変わり身の早さは見習うところがあるな。それ以外は本当に残念だけど…。
「…記憶、どのくらいもった?」
長く難しい顔で押し黙っていた涼が口を開く。
良かった良かった!退屈で寝てないか心配だったんだよな。俺だけ聞いててもパンクしてただろうから。
…おじさんの話長かったし。千紗もコレを受け継いだんだな、うん。
「トレスティアルヘルでのことを思い出せなくなったのに気付いたのが…下水楼に来て1年、くらいかな」
「リミットは1年、充分だ。優也、行くぞ」
黒光りするソファから立ち上がり、俺に目線を投げいつもだったらさっさと自分だけ先に行ってしまうのに戸の外でこちらを見ながら待っている涼。
数時間前に俺がキモうさぎ共に攫われたのを気にしてんのかな?とその気遣いが嬉しくなりニヤニヤと涼の元へ駆け寄るも今日3度目の蹴りを左足に決められ、俺の上機嫌は10秒程しか持たなかった。




