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今すぐにでも『ハル』を救出に行きたい気持ちを抑え、その藁家を二人で並んで見つめていた。
すると、藁家の入り口であろう小さな穴から勢いよく何かが飛んできた。
「チッ…」
「ぐるゔぇっ!!」
またしても涼に首根っこを引かれ思いきり引き倒される。
チッ…、じゃねぇよ!!舌打ちしたいのは俺の方だって!
だけど、そんな俺の言葉は口から出ることはなかった。自分のすぐ隣に刺さった矢を見てしまったから…。
「うわぁぁぁ!!!涼ッ!!やや矢がっッ、矢がぁあ!!と、隣俺のすぐ横にぃぃひいいぃぃっ…」
「…うるさい」
パニックになる俺に目を向けることはなく、矢の飛んできた穴を睨み続ける涼。
その横で腰を抜かしたままの俺。
涼…少しは俺の心配も……して?
「出てこい」
そんな俺の心からの願いもあっさりスルーされ、低く唸るような声で言う。
その纏う空気に俺は改めて危ない状況なんだと察し、涼と同じく暗い穴を見つめる。
が、矢を射った犯人は姿を現さない。
「…あくまでも姿は見せない、ってことか。なら、これでどうだ?」
口角をニヤリと器用に持ち上げ、怪しく笑った涼はミントを取り出し何か操作し始める。
怖い恐いこわい……ッ
あの顔をしてる時ってあんまいい事は考えていないし、いい方向に転んだことも無い。
そんな俺の考えがズバリ当たるのだが、分かっていたことながらやっぱりいい気分ではない。
操作し終えた涼は『ミント』を自身の耳にあてる。どこかに電話をかけているようだ。そのかけた相手とはモチロン……
『ヴーッヴーッ、火事です火事です』
「な、何?火事!?」
「怖いよぉ…」
「大丈夫っ!姉ちゃんが何とかするから!」
「でも外には敵がいるんでしょ…?」
「それでも…あんただけも……っ」
俺の着信音を聞いた中にいたらしき人らは、明らかに焦っているのがわかる。っていうか聞こえてくる。
…何せ藁家だからな。防音なんてされているはずもなく、会話は全てこちら側まで筒抜け。プライバシーもなにもあったもんじゃないな。
「くっくっ…焦ってる焦ってる」
「だろうな…ってか、涼。俺の着信音で遊ぶなよなー」
「こんな時じゃねえとお前の着信音何てただの公害だろ」
と、まもなくして慌てて出てくる1人の影。聞こえてくる声からして1人ではないのはお分かりだろうが、影は1つ。
頭の高い位置でポニーテールをした暗いワインレッドの髪色の気の強そうな女の子がマッシュルームヘアの同じ髪色の小さな男の子を抱えて小さな玄関らしき藁家の穴から走り出てきた。
そして近くにあった小さな藁家の陰に男の子を下ろすと少し離れ俺達と対峙する。
涼の背に隠れていた俺は、少しだけひょこりと顔を出し恐る恐る女の子を見てみる。
が、その女の子は俺なんて目にも入らないのか涼を真っ直ぐと意思の強い目で睨み上げている。
目つきが悪いなー。女の子がそんな怖い顔をしちゃいけませんッ!俺みたいな一般男子は女子の鋭い眼には萎縮しちゃうんだから。
「答えろ。あんた達何者?何をしに来た!用がないなら今すぐこの村から出ていって!」
「要求多いなー……ヒッ!!」
涼に向いていた女の子の視線は俺のツッコミが聞こえたのか、ギロリとこちらに向けられた。
無意識に情けない声が出てサッと涼の背に張り付く。
女子って恐ぇぇぇぇ………
涼はそんな俺を横目で見るもため息を一つ、また女の子に目線を戻す。そして物怖じした様子もなく口を開いた。
…ヘタレで悪かったな!!!
「少し道を聞きたいだけだ。危害を加えるつもりはない」
「人様の家に妙な物投げ込んだ挙句放火した奴がいうセリフかっ!」
「居留守使った挙句話も聞かずに矢を打ち込む奴に言われたくはないな」
ぐっ、と悔しそうに下唇を噛み更に眼光が鋭くなる女の子。涼は、何か悪い笑みを浮かべている。
「それに放火はしていない」
「嘘をつくなっ!誰か火事だって言ってたしそれに…」
「そ、それは本当…デス」
あ、声出た。か細く聞き取りにくい小さい声だったけどな。
2人の言い合いに口を挟むことも出来ずに唖然と見ていた俺。涼と女の子の視線がこちらに注がれる。
「あれ俺のケータイの着信音だし。俺達は放火犯じゃないってことが言いたいわけでその…」
ギロリ、と音が聞こえてきそうな女の子の鋭い視線が俺から、さっき『ハル』が特攻させられた大きな藁家に向けられた。
「じゃあ、あれは何よ?」
「多分それは涼が俺のハルをぶん投げた時に出来た穴で……えぇええッ!?」
「……火災だな」
燃えていた。
まだ火は小さいものの燃えている場所は藁が積まれただけの住居。それが近い間隔でぽんぽんと並べられているのだ。数分とたたないうちに村全体に火の手は回るだろう。
今俺達のいるところは風向きが悪いのか煙い。モウモウと押し寄せる大量の煙にむせるが今の俺の頭の中はあることでいっぱいだった。
「ほら見ろ!やっぱりお前らが放火…」
「ハルぅぅぅぅぅ!!!」
「ちょ…おい待て馬鹿!」
「は離せよ、涼!俺が助けに行かなきゃハルがッ」
「状況よく見ろ馬鹿!」
馬鹿馬鹿うるせぇよ!連呼すんな!
燃える藁家に再度飛び込もうとしたところで涼に取り押さえられる。ジタバタと暴れるも力は圧倒的に涼の方が強く抜け出せない。
そんな様子を呆然と見つめていた女の子は、炎の勢いが強まったのを見て弟さんらしき男の子のところへ掛けていった。
そう、俺がここで抑えられている間に炎は着々とその勢いを増しているのだ。
「涼、お願い!離してッ…。俺ハルを助けに行かねぇと……」
「駄目だ」
「何でっ……知ってるだろ?俺がハルのこと大事に思ってんの…」
「知ってる。それでも俺は…」
そこで言葉が途切れた。凄く悲しそうな顔をしている涼。整った顔のパーツを歪め、俯く。
何で涼の方が辛そうな顔してんだよ…。
理由は、解っている。その途切れた先に続くはずだった言葉も。
わかってるんだ……だけど…
ふっ、と笑みがこぼれた。その声に顔を上げた涼は怪訝な表情を浮かべ見下ろされる。これは身長差だ、しょうがない。
そして、俺の瞳を見た涼は同じように笑みを浮かべる。
俺ってちょー幸せ者だな…。
ちょっと背伸びをしながら涼の頭を撫でたが直ぐに叩き落とされる。それでこそ涼だけど…寂しい…。
「よし、行こうぜ涼!!ハル救出大作戦決行だッ!」
「ああ」
持ち前のポジティブで落ち込んだ精神をを瞬時に立て直す。
目の前の炎はもう藁家をいつ焼け崩してもおかしくない程に成長を遂げている。が、今の俺達はそんなものでは怯まない。
村のすぐ横をチョロチョロと流れていた小川に2人で飛び込み全身を濡らした。そして、藁家の前に戻り深呼吸。
「さぁ突撃だ…」
「待て」
「ぐるぶぉぅえッ!!」
おい、涼。これ三回目。
仏の顔は三度までってことわざ知ってるか?そろそろポジティブシンキングな俺でも我慢の限界はあるんだよッ。
お前が襟首ばっか引っ張るせいで若干伸びてきたじゃねぇか!!この制服私立のだから高いんだぞ!
ムスッとして涼を見上げるも、当の本人はすまし顔。
俺、ほんとに幸せ者…?
……いやいや!俺は幸せだッ!
こんな無茶なことにも嫌な顔はされたが、付き合ってくれてる親友がいるんだからな…。
涼はすまし顔のままジッとある一点を見つめている。
その視線を辿っていくとそれは藁家に空いた小さな穴。俺のハルが通り抜けた際に出来た片腕が入るくらいの。
「どしたの?」
「この穴…使えるな」
「は?」
これ?と首を傾げながら指さすと、間もあけず頷く。
涼は使えるというが、俺達が言い争ってある間に大きくなった炎が穴にまで及んでいてそこから手を入れて取る、というのは無理そうだ。
…確実に火傷だけではすまない。
「ここから手伸ばして取る、とかはなしだぜ…?」
「するわけないだろ馬鹿」
「カッティーン。俺キレちゃうよ?ってか、キレちゃったから!人のこと馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿。これも3回目だからな!?今度という今度はもう許さな…」
「これだけ元気があれば大丈夫だな。……行ってこい優也」
「ちょ待て!話は終わってな…ぎぃやぁぁあああ!!!」
うるさい、と呟く涼の声はすぐに遠くなり気付けばあの藁家の中。辛うじて形は残っているが……崩れる。数秒後には崩れる自信がある!
ハラハラと舞い落ちてくるのは火の粉という生易しいものではない。これはもう、火の雨。炎のゲリラ豪雨だ。
火の粉が掠る度に奇声を上げながらも藁家の中央付近に落ちていた『ハル』を見つけ、しっかりと握りしめた。
「おぉ…会いたかったよハルぅ。13分ぶりの再会だね!君がいない間どれだけ心配したことか…。熱かった?熱かったよな、ゴメンな。すぐに助けに来てやれなくて……」
「おーーい優也。見つかったかー?」
火の壁の向こうから呑気な涼の声。一瞬無視してやろうかとも考えたが今の状況を思い出し、対象物発見!保護しましたぁ!と叫び返す。
了解。直ちに救助します、とノッてきてくれたことににんまりとしていると、次に聞こえた言葉に俺は慌てた。
「巻き上げ開始しまーす。受け身を取ってなー」
「う、受け身!?おい涼!何する気……のわぁぁぁあああ!!!」
ぐっ、と腰の辺りが引かれ一瞬の焦げるような熱さのあとドンッと何かにぶつかる。
「…行きも帰りもうるさいやつだな」
「涼!!」
間近で聞こえた気怠そうな声に顔を上げると広がる親友のどこかホッとした顔。
あぁ、俺戻って来れたのか……。




