落ちて異世界
突然だけど俺達はマンホールへ落ちた。
俺達、というのも足場が突如消えたので無意識に近くのものを掴んだのだが、それがほぼ毎日一緒に登下校をしている俺の親友の制服。
そしていきなり掴まれたので大して抵抗も出来ずに仲良く2人暗い穴の中へとダイブ、というわけ。
高校へ行くための何気ないいつもの通学路でのこと。
もう1年半も通い続けているその見慣れたその景色に俺は飽きていたのかもしれない。
そして、油断していた。
しかし、誰が想像しただろう。
マンホールに落ちた先の世界を………
「痛っッ!!」
「オレのが痛いっつの…」
一瞬の浮遊感のあと、俺達は気を失った。
そして、目覚めた時に一番に感じたのは酷い頭痛と落ちた時に打ったのかケツが痛い……。
が、それよりも今は下敷きにしていたらしい俺の親友を解放するほうが先だ。
「ごめんごめん…っしょ、と。大丈夫?」
立ち上がり、親友を助け起こすため手を差し出す。
「ん。ありがと……って違うか。おい優也。落ちるなら一人で落ちとけよ」
「はぁ!?」
「だ、か、ら。犠牲者は一人でいいだろって」
「んなこと言うなよぉー涼。俺達の仲だろ?」
「一緒にマンホールへ落ちる仲になった覚えはない」
バッサリと言い捨てられた…。
が、いつもの事なので気にはしない。俺は超がつく程のポジティブシンキングだからなッ!
自分で勝手に落ち込み自分で自分を慰め、落ち着いたところでふと疑問が浮かび上がる。
何か……明るくね?
ここマンホールの中だよな??
チラリと、それでもって恐る恐る上を見ると輝く太陽が2つ……ふたつ?
「なぁなぁ、涼。太陽って2つあんの?」
「…精神科行ってこい」
「はぁ!?涼こそ眼科行ってこいよ!ほら、上見てみろって!」
2人で見上げるも太陽はやはり2つある。間違いない。
寄り添うようにして少し大きめの太陽の横に小さく光の弱いもう一つの太陽が一緒に、ゆっくりと西から東へと動いている。
西から東へ…。
「なぁなぁ、涼。太陽って西から東に…」
「……動いてるな」
「だよな」
「太陽も2つある」
「うん」
2つの太陽を睨み上げる俺達。
だけど、太陽が2つあるということも動く方向も変わらない。
「「……精神科行くか」」
……精神科、どこ?
つか、俺達今何処にいんの!?
「マンホールの中って凄いなぁ。初めて入ったけどこんなになってたのかー」
「んなわけ…ないだろ……」
「じゃ、ここ何処よ」
「……下水道に流されて外国?」
ああ、そういうことか!
下水道ね。俺達濡れてないけど。いや今は変な汗でちょっと湿ってるか。
辺りをキョロキョロと見回してやっぱり此処は外国なのだろうと2人で頷きあう。
俺達の周りを取り囲む木々は、見たことがないものばかり。というかこれは本当に植物なのか?と疑うようなものしかない。
とにかく……動く。
動き回っている。
「とりあえずここから離れようか…。何か色々とキモイし」
「だな」
「まずは人……は居なさそうだし街でも探すか?」
「ああ。…シッシッ」
涼の足元をチョロチョロと走り回る雑草達を涼は足で追い払いながら進む。それでも寄ってくる色とりどりの草花。
…何か可愛く見えてきた。
どういう生態なのかその仕掛けを暴こうとそっと小さな葉に手を伸ばすが、俺の手を避けサッと涼の足に擦り寄る。
「何で涼ばっかり……。雑草共も女の子達と一緒でイケメンがいいって?おいコラ差別だぞッ!たかが雑草だけど、それでも俺は傷ついたんだよ!責任とって撫でさせろ雑草ッ!!」
「何1人でブツブツ言ってんだよ優也。……何その手」
「え?」
せめてひと撫でだけでも、とワキワキと怪しい手つきで涼の足下にいるやつをロックオンしてまさに飛びかかろうという瞬間、涼に妙に冷めた目で見下ろされていることに気付く。
その不審者を見るような目はやめてください涼さん。
俺でも流石にキツいからっ!!
何でもない、と自身の手を背中に隠し早足で森の中を進んだ。
後ろからまだ痛ーい視線を感じるも、持ち前のポジティブ思考で、これは俺を心配し見守る眼差しなんだと思い込むことで乗り切った。
どのくらい歩いただろうか。
暫く歩いていると木々の隙間から何かが見えた。
これは……
「家か?」
「…おそらく」
「藁積んでるだけじゃね?コレ」
所々に積んである大量の藁の塊を近くで見ると人1人しゃがんで通れるくらいの穴が空いていて中には入れそうだ。
ひょこ、っと屈んで覗いてみてびっくり。中は結構な広さがあり、木で作られたであろう家具らしきものもチラホラとある。
やはりこの藁の塊は家でちゃんと人も住んでいるらしい。
今この家は留守らしいけど。
「…一応村みたいだし誰かいるんじゃねぇか?」
「まぁこの藁家がそこかしこにあるもんな。よし……誰かいまっせんかーッ!!」
シーン---
静寂。それが示すことは返事が出来るようなものは居ないということで…
「……皆様お留守のようで。しょうがねぇ他行くか」
「いや、違う」
気配がある、そう言ったきり涼は黙って辺りを警戒するように姿勢を低くし見回し始める。
え、涼気配とかわかんの?何か凄くね?隠れんぼで鬼だったら最強じゃん。
今度涼と隠れんぼする状況になったら鬼だけはさせないようにしよう、と1人考えていると涼が俺のスボンのポケットにサッと手を突っ込んだ。
ええぇぇぇええッ!?涼!?どしたのッ!?まさか涼ってソッチ系の人だったりなんたりっ……
自分でも訳がわからないが、頭の中はもうパニック。
「借りるぞ」
ポケットから手を取り出した涼の手に握られているのは、俺の一部で家族のような存在。
常に行動を共にし、嬉しい時はソレを通して色んなやつと語り合い、辛い時には面白いもの楽しいものを見せて明るい気分にさせてくれる。そして、俺を甘やかせるだけでなくしっかりと現実をも教えてくれる。
…大切な俺の白と黒のツートンカラーの携帯電話。スタホ。
普通に貸すだけなら全然いい。ただし、使い方を間違っていなかったらなッ!
涼は、俺の相棒を掴んだ左手を後ろに振りかぶり何とそのまま藁家の中でも一際大きな藁家に投げつけたのだ。
「おぉい!?涼、俺の『ハル』になんて事をッ!!!」
「投げるものが身近に無かった」
「涼もスタホ持ってんだろッ!!」
「……俺の『ミント』にそんな危険な真似させるわけないだろ」
「おい」
ギュッと胸ポケットに入った白と灰色の同じようなツートンカラーのスタホを大事そうに押さえている涼を横目で睨むも今はそれどころではない。
俺の『ハル』は今得体の知れない藁家の中にめり込み1台寂しく俺の迎えを待っているに違いない。
待ってろ『ハル』!今助けに行くからなッ!
「…待て」
「ぐるゔぇ!?」
走り出した俺の首根っこを涼は容赦なく掴み絞首される。
ゲホゲホと咳き込み文句すら言えない俺の横でスッと目を細め眼光が鋭くなる。その目線の先にあるのはハルの待つ大きな藁家。
『ハル』への暴挙は許さないが、涼は意味もなくこんな事をするような奴じゃない。
幼少期からずっと一緒なのだからそれくらいはわかる。
それに俺と同じく名前までつける程に大切にしているスタホを投げたのだから、それを使わざるを得ない何かがあるのかもしれない。
…俺の『ハル』を使ったのは許せないが。




