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『ミント』を俺から大事そうに取り返した涼は、俺がまた狙うと警戒しているのか離れた場所に移動し、黒光りしている応接用の椅子にゆったりと体を預けて座った。
…ひでぇ。もう盗らねぇよ!こんな冷たい空気生み出した元凶なんか。
「元凶はお前だ、馬鹿」
「その頭の中読む能力も魔法か!?『ミント』のステキ機能か…!?」
出来ねぇしそんなもの使わなくてもお前の考えそうなことは分かる、と吐き捨てられた。
嬉しいような悲しいような…悲しいような……
…うん、嬉しい。俺のこと解ってくれてるってことだもんな。
「嬉しいぞぉぉおおおッ!!!涼ぉぉおお!!」
「…やめろ。キモい。」
ヘブッーッ‼︎
目にも止まらぬ早さで逃げられた俺は、高級そうなソファーにめり込む。デ、デジャヴ…
やべ、ちょい鼻水ついた…証拠隠滅ッ!
「…何してる」
「いんや〜、べっつにー」
「どうせバレ…」
シーーッ‼︎人差し指を口元に当て涼の先に続く言葉を静止する。
知らんぞ、と呆れ顔をしているが安心しろ涼。今回は自信がある。誰にもバレずに汚物の抹消、遂行してみせるッ!
「…ねえ、優也。汚いから早く吹いてくれる?」
親指と人差し指の先で持たれたあの顔面削りタオルをまさに今隠滅しようとした俺の鼻先に嫌そうな顔で差し出された。
「…はい」
「優也くん。これもお願いね」
千紗父から渡されるアルコール臭のするしけったこれまた高そうな布巾。
「はい、これも」
空気とかしていた平喜からはゴミ箱のプレゼント。
「全員にバレてるぅぅうう……」
「だから言っただろ、バレるぞって」
皆様のお話し中に少しずつずらして部屋から涼ごと抹消する作戦が…。
無理あるぞ、と俺がソファの掃除をする音しかしない応接室の中、涼の静かな美声が落ちるのだった。
「…俺にも魔法、使えるようになる?」
「唐突ね。使えるわよ…多分」
ソファーの掃除をあらかたし終えた俺は、涼の向かいに腰掛けて優雅に紅茶を啜っていた千紗に尋ねた。
だってズルいじゃん。涼や千紗だけ良さげな魔法使ってて。涼なんて氷のなんかをバンバンカッコよく飛ばしちゃってさ。ズルいじゃん。
「涼はあの攻撃魔法見るに氷属性だろ?背中の虎の入れ墨も白っぽかったし。ってことは…」
俺も火魔法使えるようになれば涼みたいに、炎の塊なんかを敵にカッコよく飛ばせせるように…
例えば……
「『ハル』ふぁいあーぼぉるッ‼︎なーんてーッアッツィーッ!!」
「ぎゃっ!優也くん優也くんっ!火止めっアッツィーッ!!」
止めろったって人生で初めて魔法発動させたばっかだってのにッ無理だってぇぇええ!!!
突如御乱心した『ハル』の液晶画面からゴルフボール大の火の玉が四方八方、縦横無尽、無差別に出るが家具や涼達には向かわず何故か千紗父へと集中的に向かう。
「『ハル』!!伏せ!おすわり〜ッ!」
俺の必死の叫びも空しく、依然画面から飛び出し続ける火の玉は容赦無く千紗父を襲う。
千紗のパパさんごーめーんーなーさいーッ!!!
俺の意思じゃないんですぅう!!!
「ッにやってんだよ!次から次へと!」
ピッ…ご用件をお話し下さい。
「『ミント』ウォーターショットッ!」
ピッ…検索結果、こちらが表示されます。
『ミント』から無機性な音声が流れた後飛び出す拳大の水の塊はこれも容赦無く千紗父へとアタックを開始した。
「ぎゃっ!冷たッ!熱っ!冷たッ!!熱…冷たッ!!やっぱアッツィーッ!!」
俺のファイヤーボールと涼のウォーターショットを交互に受け続ける千紗父。
…なんか状況悪化してね?2人で千紗パパ拷問してるみたいじゃん……
何処か他人事のような思考を最後に俺の記憶はそこで途切れるのだった。




