02.お母さん、現地調査する
空は晴れ渡り、絶好のお出かけ日和です。と言ってもここのところ出かけてばかりですが……。荷台にわたしとパロットさんが乗りこむと一路領の北部にある堤防に向かいました。
うちの領の川は大きくS字に曲がっています。堤防はその両側に沿うように作られているそうです。
たくさん水が流れてきた場合、カーブの外側に水流がぶつかり、その堤防を削るように水が流れます。そのため、堤防を作り替える必要があると今まで思われてきました。
そして、外側を削るほどの流れがあるということは、反対に内側には土砂が溜まっていきます。水路航行ギルドは船が通れるように、少なくない金額をかけて浚渫工事をしていたそうです。浚渫とは、流れやすくするため川の底を掘る工事です。つまり、このS字は削れる堤防を作ることと、浚渫必須という二つの金食い虫を孕んでいたわけです。
そして、今年水路航行ギルドから提案があったのは地形そのものを変える治水案です。
このS字を緩やかな曲線にして、遊水地を作り、護岸に三柱枠で水流をいなす工事をしようとしているわけです。
そうすると、大きな力で堤防が削られることもなく、なんなら、とぎれとぎれの堤防で良くなりますし、水の流れが川の中央に集まるため浚渫工事がちょっとで済むわけです。
ということを、移動の間に皆さんに説明しました。
すごく専門家のようですが、しっかりカーミットさんから教わりました。ローランも一緒に聞いていたので、よくできましたと、親のような顔をしています。
堤防に着きました。
いえ実はちょっと前からもう堤防だったようです。
「まあ大きくて長いのね」
「堤防ですから」
ローランはさっさと地図を広げて見ています。
「ここから始まって、約四キロほどでしょうか……」
ローランが地図を指して説明してくれますが、まあ、見たからと言って分かりません。ローランがじっと見下ろしています。
「上ってみましょう」
堤防の形は、丘のような形です。
「維持工事は、こちら側に土砂を盛って補強しています」
グエンさんが上りながら説明してくれました。
今は穏やかな川ですが、これが雪解け水と大雨が重なると大暴れするわけです。
では実際四キロ歩いてみましょう!
ですが、パロットさんは進んで荷馬車の係を引き受けられました。
わたしたち三人は、堤防に沿って河原を四キロ歩くことにしました。
「まあ、ローラン! 魚がいるわ」
「きれいな石、まあ、カニもいる」
そう言って歩いていると、ローランが冷たい目をしてきます。
「堤防を見てください」
「船だわ!」
わたしが手を振ると、船のお客さんたちが手を振ってくれました。船が通ると大きな波飛沫が起きます。それにしてもS字カーブの運転は大変そうね。治したくなるわけだわ。
「場所によって堤防の厚みが違う気がするわ。ローラン、地図に書き込んでおいて頂戴」
「もうやっています」
そして、カーブの頂点までやってきました。
「ねえ、とっても不思議なんだけど、カーブの内側にも堤防って必要なの?」
そう、この堤防S字カーブを囲うように作られているんです。内側って必要?
「分かりませんが、書いておきます」
ローランは答えて、地図に書き込みをしています。
グエンさんは先ほどから黙って、堤防を見ています。
「グエンは、堤防を見に来ることがあるの?」
「今日のように内側を歩くことはありません。基本、維持工事は外側に盛り土をしているので、その監督には立ち会ったことがあります」
なるほど。
「その盛り土の土って、どこから来ているのかしらね」
「え?」
グエンさんは、ぐっと眉間にしわを寄せて、また堤防を見ました。
やはり、四キロというのは長かったです。若いローランでも息が切れていますね。グエンさんもとっても頑張りました。
ゴール地点では、パロットさんが手を振ってくれていました。
彼が一番賢い気がします。
「ねえ、せっかくだから晩御飯を採って帰りましょう」
わたしは、いそいそと荷馬車にこっそり積んでいた網を出します。
「お母様、堤防の調査になんで網を持ってきているんですか」
「これは……もしものためです」
ローランに怒られてしまいました。ですが彼は網を持って、川に向かってくれます。さすが男の子だわ。とっても素早い網捌きです。私は水面を叩いて魚を追い立てながら応援します。
そして、大きな鱒を二匹捕まえて家に帰りました。
厨房にお魚を届けて、会計室に向かいました。
グエンさんだけが険しい顔で、違う方へ向かおうとしています。
「グエン?」
「アリシア様、私は維持工事の報告書をもっていきます。先に行っていてください」
「分かりました」
グエンさんはそのまま足早に行ってしまいました。
なんだか、あの険しい顔は嫌な予感がします。
どうしましょう、堤防には何か秘密があったのかしら。




