22.お母さん、高い勉強代
ロバートさんと、パロットさんとローランは水路航行ギルドで借りた馬車で帰りました。わたしは荷馬車です。スコットさんの大事な荷馬車を置いて行く訳にもいきませんから。
玄関ではソフィアが出迎えてくれました。
言われてみればソフィアは本当にかわいいです。
ふわふわの栗色の髪に、エメラルドみたいなくりっとした大きな瞳。
宗教画で見る天使よりも天使です。
しかも今は、当たり前に手を広げて待ってくれています。
ぎゅっと抱きしめると、ふわっとします。
「ただいま、ソフィア」
「おかえりなさいませ、おかあさま」
声も可愛い。これはロバートさんのお孫さんもメロメロでしょう。どうしましょう、もうお嫁に行くことを考えないといけないなんて。
日本では直樹は結婚しましたが、莉子は結婚していませんでした。わたしががんになったタイミングで、彼氏と同棲を始めていましたがどうなったのでしょうね。
『莉子さんって本当に……』
アリシアさんが何を言いたいのかわかりますが、可愛い娘でしたよ。
契約書は再度書き直しが行われ、ロバートさん個人と、リースマン領との契約になりました。数字の調整はパロットさんがしてくださいました。有能な会計士なので。
そして、ロバートさんのお孫さんと、ソフィアとの顔合わせですがパロットさんの男爵位の申請が通ったら、一度王都へ叙爵を受けに行かないといけません。その時に家族総出で王都に行くことにしました。そういう理由を付ければ、伸ばせるでしょう?
船代は、一生タダ券がありますから心配しません。
ロバートさんは契約が済むと帰っていきました。あっさりとしたものです。
水路航行ギルドでの三日間限定食堂は……無事、と言われれば、無事終わりました。コック帽さんにも手伝ってもらいました。おうどんのお代わりがきて、足りなくなりそうになりましたがおおむね計算通りでした。
とくにお味噌汁が人気で、コック帽さんが自分の作り出す味噌に自信が持てたと喜んでいました。
準備で燃え尽きた感じが否めませんが、それでもやり切ったと思います。
そうそう、うちの領ではできませんでしたが、川上の領で第一回遊水地築堤工事が行われたそうです。それに合わせて穴あきダムも設置されました。川上での洪水対策はばっちりでしょう。
水路航行ギルドの皆さんが両手を上げて喜んでいました。
それを聞くと心置きなく船を使えます。
わたしは緩いワンピースに着替えて、ベッドに寝転がりました。
振り返ると、怒涛の二か月だった気がします。
「ローラン、成長したわね」
『そうね、あんな風にお口が悪くなるなんて思いもしなかった』
「あれは信頼からくる甘えよ」
「ソフィア、お嫁に行くかもしれないのね」
『そうね、それもベルナール家っていう名門に』
「もうお嫁に行くことに悩むなんてね」
「パロットさんは男爵になるわ」
『ほんとにいい人で、頼もしいわね』
「スキル《算術》ですって」
「ごはん、お味噌をゲットしたわ」
『お味噌汁って……みんなうどんより受け入れたわね、すごい』
「発酵食品は嵌る人が多いのよ」
「リコリコの工場ができたわ」
『そろばんもね。ロバートさん、すごい人だったわね……いろいろと。よしこさんじゃなきゃ、いなせなかったと思う』
「年が近いからかしら」
「治水工事の実験も成功したみたいだし、早くうちの領にも使いたいわね」
『まずはお金を貯めないと』
「土木ギルド次第ってことね」
そしてはたっと、気づきました。
布団を蹴り上げて座りました。
「ねえ、アリシアさん。ここまで色んなことができて、人脈も増えて。工場なんて建てて。頑張っているのに……」
『ええ』
「お金が貯まってないわ」
アリシアさんの息をのむ音が聞こえます。
「それどころか、いっぱい使っちゃったわ」
『そうね。これからも出る予定しかないわ』
どうしましょう、これがいわゆる勉強代なのかしら。
商売のお勉強編ラストです。
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