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お母さん転生する  作者: 大島Q太
商売のお勉強編
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18.お母さん、産業を作る



仕様書を何度も書き直しています。

ロバートさんの指が字を追うのを見守ります。なぜか、テストの採点を待っている気分です。

「リコリコは、リースマンの王都の店で売り出しましょう」

「あの……これ、売れますか?」


「どうでしょうね。ですがこれが助けになるのは間違いないです」

「……え? どうして」

ロバートさんは、二周目のチェックをしています。

「冬の間、農村では女性たちが内職をします。ですが農村はあまり物資が豊かではありません。その中でこの「リコリコ」は布と糸と針。シンプルな材料でできます。そして特別な技術もいりません」

ロバートさんに紙を渡されました。チェックの入った場所を読んで、新しい紙に書き写します。

「……これがどれだけの農村の女性たちを救うか」

手を止めました。それは私にはない発想でした。

「ですから、私たちはこれを継続的な消費を呼ぶブランドにしなければなりません。そのためには売ります」

わたしはただ作って売ることしか考えていませんでしたが、ロバートさんはその一歩うえを考えていたようです。

「……それはいつから考えていたのですか?」

「貧乏なあなたが、公爵の昼食会に出られるくらい身なりを整えた時です」

「さいしょっから!」

「貧乏は否定しないんですね」

ロバートさんがうなずいて笑いました。

「商売とは市場調査も大事ですが、雇用や生産も大事です」

リコリコが女性たちの生活を支えるなんて、素敵じゃないですか。


「それでですね。このリースマンのリコリコですが、まずは職人を育てましょう。各農村に行って指導する人間です」

ロバートさんは、出来上がった仕様書に判子を押しました。


「ですがその職人の指導はリースマン伯爵にしかできません。ですから、リースマン領に工場を建てませんか?」

「……工場ですか?」


「そうすれば、リースマンの人間を雇うことができて、地域の活性にもつながる。技術を身に着ければ、収入につながる」


地場産業だわ!


『よしこさん、工場を建てるお金は?』

アリシアさんが、呟きます。

「あの……」

「お金の心配をされているのでしょう。誘ったのは私ですから工場については私からも出させていただきます。ちょうど、水路航行ギルドの近くに良い空き倉庫があるそうです。所有者が白金貨二枚で売ってもいいと言っているそうですよ」


「……まあ、白金貨二枚」

「リースマンの負担は白金貨一枚です」

ロバートさんはじっと私の目を見てきます。

「アリシアさんは、王都に店舗を構えるところから始めようとなさっていましたね。ですが、すでに店舗は保有済みと聞きます」

そう、ブライアンがお店を持っていた。

「つまり商業を始めるための初期投資はすでにできている。なら、売るものをしっかり準備する方に投資するべきです」

ロバートさんの演説はとても熱心でした。

「あなたがここで決断していただければ、農家の食卓にイモが一個増えるかもしれません。もしくは、兄たちが出稼ぎに出なくて済むかもしれない」

気付けばわたしも前のめりに話を聞いていました。


「それが白金貨一枚の投資で、作れる雇用と、産業なんですよ」

ロバートさんは本当にいろいろ考えてくださっています。

「分かりました。工場建てます!」

『よしこさん? 即答過ぎない?』

アリシアさん、イモ一個……増やしてあげましょう。


わたしはロバートさんが用意した、契約書に領主のサインと印も押しました。

とてもやり切った気分です。

『よしこさん、うちの領は貧乏ですけど、出稼ぎなんてしません。冬は冬で麦を育ててますし。蓄えもちゃんとしています。ロバートさんはどこの話をしているんですか?』

え?

ロバートさんは、並べた書類を順にみて、うなずいています。

「こちらが伯爵の控えです。こちらはギルドの控えとして持って帰りますね」


「ロバートさん、先ほどの話。どこのお話ですか?」

「……王国全体です」

「そうなのね。この事業がそういう境遇の人たちの救いになるのは本当よね」

「もちろん」


なら、良いじゃない。良いわ。

「ただロバートさん。ちょっと姑息だわ。わたしは正直に言っていただければ、ちゃんと投資します。今回のやり方は王都流過ぎましたね」

「王都流すぎるですか……すみません。気が逸ってしまって」


どこまで計算なんでしょう。


「あら、それにしても……うちの領が貧乏なのはご存じよね。白金貨一枚だって払えない可能性もあるのに」

「そこは……」

ロバートさんが言葉を濁しています。ですが、私のじっとりとした視線に負けてくれました。

「商業ギルドは金貸しもやってますし、カチューシャの技術を担保にしていただければいつでもお貸しできます」

まあ、カチューシャも加味していたなんて、計算高い。


「そこまでして、雇用を増やしたかったんですね。もう、今度はちゃんと相談してくださいね。友達なんですよね」

「ええ、次からは」

ロバートさんの目から少し、商売人の色が薄くなりました。


どうしましょう。カチューシャを売って足しにと思っていたのに、プラスどころかまたマイナスです。


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