16.お母さん、できること
発酵!発酵!
醤油、納豆……甘酒。醸造はできないにしても、リカーくらいならできるかもしれない。リンゴ酒とか。ミード酒ははちみつだったわね。あとは、ワインよ。って、ワインはもともとあるわこの世界に。
ちょっと待って、ウィスキーがあるなら、梅酒が作れるわ。
やだ!最高じゃない。
ゆるいワンピースに着替えて、ベッドに飛び込みました。
それにしても、やっぱり知識だけではできないものね。カイラーが居なければぼやけた味噌煮込みうどんになってたわ。これってこれからの教訓よね。郷に入っては、郷に従え。餅は餅屋って。
あ、もち米ってあるのかしら。お米はあったわね。醤油とお餅……最高ね。
『よしこさん?』
アリシアさんが少し慌てた声を出してきます。
なあに?
『とっても、おいしそうなものが次々と浮かんでいるようなのだけど。目標を忘れないで』
ああ、領地再建。忘れてないわ。お金は……どんどん出て行っているけれど、忘れてないわ。
『お味噌に銅貨三十枚払ったのは見えていたのよ』
まあ、さすがアリシアさん、抜け目がないわね。お味噌に三千円は高いと思うけど、これはわたしの希望なのよ。
『ええ、ですから投資したら、回収することを忘れずに』
「はい」
「あ、そう言えばさっき、カイラーがトウモロコシの下処理ができたって言っていたわね。やっと作れるわ。タコス!」
『よしこさん?』
ごめんなさい。わたしだって、わたしに何ができるだろうって悩んでいるのよ。設計のプロなら、建物や時計台なんか作ったり。医療のプロならほら、ペニシリン作って無双したり。でも実際できることって、子どもに怒られることと料理くらいしかないんだもの。
『昨日、あんなに子育てについてしんみり語ったのに。ローラン……あの子は苦労するわね』
アリシアさんの声は、しみじみとしたものでした。
「幽霊屋敷どうするの?」
『稼いで直すしかないじゃない』
「そう言えば、入学資金とかあるの?」
『稼いでつくるしかないじゃない』
「入学前に準備学習とかは?」
『稼いで準備するしかないじゃない』
「……アリシアさんも大概じゃない」
「あ!そうだ。ロバートさんにカチューシャ売りつけなきゃ!」
ぐっとこぶしを握って、決意します。
『できるだけ、たくさん財布を開かせましょう』
「アリシアさん、あなたも染まってきたわね」
軽やかに笑うので、つられて笑ってしまいました。
「そうと決まれば寝る前に、少しつまみ細工をしておきましょうか」
布を収めた箱を出して折りたたんでいく。この世界ではまだ糊の代わりになるものは見つけられていないから、一個一個 針と糸でかがっていきます。
「つまみ細工はね。莉子が成人式の時に記念になればと作ってみたの。あの子は結局成人式には出なかったわ。着物を買うお金があるなら、そのお金で海外に行きたいって言ってね……あ、海外っていうのはね、外国のことよ。島国だったから、海の外の国を、海外と言っていたの」
できた花弁を一つずつ並べていく。
「こういうところが、重いって言われたわ。お母さんはいい母さんだって言われたいからしてるんだって。そんなの、莉子の母でいたかったのよ。当然だわ」
花弁が八個溜まったので、それを一つずつまた縫い合わせていく。
「旅行代を夫婦で、お小遣いを真子が出したって。あの子嬉しそうに旅行に行ったわ」
きゅっと最後にはなれないよう、解けないよう繋いで糸を切った。
「……つまみ細工は……玲奈ちゃんが使ってくれたのよ」
『玲奈ちゃんは喜んでくれたの?』
「ええ、とっても。愛子さんも喜んでくれた。愛子さんは、直樹の奥さんで、玲奈ちゃんのママよ」
だからね。これにはちょっとだけ、自信があるわ。
……死ぬ直前まで作ってたな。玲奈ちゃんの七歳の七五三まで見届けられたのは良かったわね。
『……とってもきれいね』
「ありがとう。売れるかしら?」
『売りましょう』
そのあと、追加で四つほど作って寝ました。
どうしましょう。やるしかないのね……今度ソフィアにも作ってあげましょう。




