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お母さん転生する  作者: 大島Q太
王都問題整理編
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06.お母さん、市場へ行く

 ぱっちりと目が覚めました。健康な体はいいわね。

「……朝ごはんどうしましょう」


『起きてすぐがそれなの? おはよう。よしこさん』

 くすくすと笑う声が聞こえてきます。

「だって、朝ごはんはしっかり食べなきゃ。働けないわ」

 ネリアが用意してくれた客間には、馬車に乗せていた荷物が運ばれていました。おかげで着るものには困リませんでした。

『市場に行けば、食材は揃うわね』

「まあ、朝市……行ってみたいわ!」

 自分で着られそうな服を選んで、着替えることにしました。この世界の服、ボタンばかりで大変ね、お年寄りだったら着替えるのに半日はかかりそうよ。若くなっててよかったわ。


「さて、じゃあ……いきましょうか!」


『お金は執務室の金庫よ。厨房は一階の奥にあるわ』

「はーい。じゃあまずお金をっと……開けゴマ!」

執務机の上の書類は薄眼で確認しつつ、教えてもらった金庫の前に陣取ります。

 金庫は魔力で開く仕組みだそうです。鍵の部分を指で押さえるとカチャリと開きました。そしてそこには悲しい現実が……。

『おかしいわ。もっとあるはずよ』

悲壮なアリシアさんの声が響きます。

「まあ、それは後で確認しましょう。それより、わたし、この世界のお金のことよくわからないんだけど?」

『あらごめんなさい。この世界のお金は全部貨幣です。鉄貨・銅貨・銀貨・金貨・白金貨・黒金貨って順番よ。金貨一枚がよしこさんの世界の百万円の価値だから……』


「え、ちょっとまって、治療費が二百万円もしたってこと?」

『仕方ないわ。我が家は伯爵だもの。男爵や、子爵くらいならもっと安くなるわ』

「まあ、治療費って人を見て請求するの……恐ろしい。市場は大丈夫? 伯爵価格とかないわよね」

『まあ……よしこさん面白い』

 何が面白いのかしら……。

『伯爵はそもそも、市場に行かないわ。欲しいものがあれば注文する、もしくは、買いに行かせるの二択よ』

「まあ。そうなの……芦屋マダムみたいね」


 なんだか、伯爵って大変なのね。わたしに本当に務まるのかしら。

『大丈夫、そのために私が付いていますわ』


 厨房に行き手ごろな籠を手に入れ、ついでにエプロンと、この目立つ金髪をどうにかしたくて三角巾のような布も見つけて巻いてみました。

『どこからどうみても、伯爵夫人には見えないわ!よしこさん。すごい!』

 褒められているの? 褒められたのよね。よし、準備完了ね。

 厨房横の木戸から外に出ると、薄く朝霧がかかっていました。気の向くまま人の声がする方へ出ることにしました。

真っ白な塗り壁と赤い屋根、白みがかった石畳。

「消防の婦人会の慰安旅行で見たスペイン村みたいだわ……」

『すぺいんむら?』

 ひとりごとよ、気にしないで。さあ、行くわよ。

 そうして歩いていると、次第に人通りが増えていきます。

 大きく開けた場所にはカラフルなテントが張られ、その下にはいろいろなものが売られていました。自分と同じようにエプロンを付けた女性も多くみられます。活気があって、顔が明るい。

 ここは治安が良いのね。

『五百年続くウィリアルド王国の王都ですもの……でも、変な人にはついていかないで』

「はーい」

 ウキウキと、店を見てまわりました。

「まあ、食材は言っていた通り日本とあまり変わらないのね」

『ええ、それで欲しいものは決まっているの?』

「いいえ、決めて買うと高くつくのよ。一周目はまず、値段を見て回るの。そして、献立を考える。二周目で今日使うものは見切り品、明日使うものはできるだけ新鮮そうなものを選ぶといいのよ」

『そういうものなのね』

 アリシアさんから感心するような声が聞こえてきます。

「調味料は、厨房に揃っていたから食材だけでいいわ。そうね、卵と塩漬け肉……まあ、お魚がたくさん!……うちはみんな肉食だったから……お魚良いわね」

『王都は海からも近いから新鮮よ』

アリシアさんも声が弾んでいます。


 やっぱり、市場に気分が上がっていたようだわ。どうしても観光地に行くとお財布のひもが緩むのと同じ感覚ね。

 気付けば籠がずっしりと重くなるまで買い物をしていました。

「さあ、帰ってお料理しましょう」


 無事帰宅すると、玄関の前でトムとネリアがあたふたしていたます。

「あら……」

「奥様ぁー!」

 ネリアがわたしに気付いて突進してきました。

「ただいま?」

「どちらにいらしてたんですか!急にいなくなるから心配しました」

「ごめんなさい。あなたも疲れているだろうと思ったの。起こすのも申し訳なくて、ひとりで買い物へ」

 抱き着くネリアの背中をポンポンと叩いてあげます。

「うううっ」

 後ろでトムもソワソワとしています。彼も心配してくれていたようです。

「トムもごめんなさい。さあ、中に入りましょうか。朝ご飯を用意するわ」

「奥様がですか?」

 トムが驚いた顔をしています。


『ふつう伯爵は料理しないわね。私もしたことないもの』

 まあ、楽しいのに。


 どうしましょう。ここに来て初めての料理、わくわくするわ。


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