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お母さん転生する  作者: 大島Q太
王都問題整理編
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05.お母さん、現状を確認する

 馬車などを借りる余裕もなく、わたしとネリアは暗い道をリースマン領のタウンハウスへ徒歩で帰ることになりました。リースマンのタウンハウスがあったのが貴族街でも外側だったお陰で、教会に近くて良かったです。

なんとか到着して、見上げました。

「……なんだかうちは他所よりも暗いわね」

 どこの家も窓が煌々と光っているのに、リースマンのタウンハウスはまるで幽霊屋敷のように人の気配を感じませんでした。

「ネリア……何か聞いている?」

 ネリアはすぐにそっぽを向きました。まあ、聞いているけど言えないのね。腕を組んで、ネリアを睨むと、ネリアはしょぼんと肩を落としました。

「旦那様はほとんどタウンハウスにはお戻りにならないそうです。その間は、ハウスメイドが入るだけで……お屋敷には使用人もおりません。いるのは家令のトムさんだけです」

『ブライアンは愛人のところに入り浸っているのよ』

 アリシアさんの怒りを含んだ声が響きました。


「まあ、それなら仕方ないわ。入りましょう」

 ええ、なんとなくだけど予測はついていました。妻が馬車の事故で三日も治療院にいたのに、一度も会いに来ていないのだもの。とんでもないクソ旦那だわ。

『ふふふ、クソ旦那って……その通りだわ』

 アリシアさんが笑いました。その諦めの混じった声に毒気を抜かれました。


 玄関を開けると、がらんとしたホールが見えます。借金はあっても由緒ある伯爵家らしい立派な玄関です。ただし、掃除をしやすくするためでしょう、ほとんどの家具に布が掛けてあります。これではまるでドラマで見た差し押さえ現場のようです。

「奥様。トムさんを探してきます。ついでに客間を準備してきますね」

 ネリアがそう言うと、パタパタと走って行きました。


 待っているとトムが出てきました。

「アリシア様」

『トムはお父さまの代から我が家のタウンハウスを守ってくれている家令だわ』

「お久しぶりね。トム」

「アリシア様ーあぁーわたくしめはダメな家令ですぅぅ」

 ぶわりと涙を浮かべて、トムさんはその場に膝をつきました。

「あらまあ」

 わたしと同い年か、少し年下五十代くらいに見えるわね。そんな人が泣いてしまうなんて、よっぽどだけど。

「ダメっていうのは、どこらへんが?」

 思わずこぼすと、トムがはっと目を見開いて見上げてきました。

『……きっとそんなことないわ。とか、ダメではないわという言葉を欲しているのよ』

 あら、空気読めなくてごめんなさい。


「それは見ていただければ……」

 トムはすっと立つと、ずびっと鼻を鳴らして歩き始めた。慌てて背中を追いかけます。どうやら泣いても仕事はしてくれるみたいです。

 トムが入っていったのはブライアンの執務室でした。

「……こちらでございます」

 執務机の上は、書類が散乱してひどいありさまです。

『まさか、助成金が届かないのはこのせいなのでは……』

 十中八九間違いないわねぇ。あなたの旦那。クソクソ旦那にランクアップだわ。


「なるほど、トム。確かにこれはダメね」

 冷静にそう答えると、トムは肩をがっくりと落としました。

『トムだけのせいではないのよ』

 アリシアさんの優しいフォローが響きます。

 でも、ダメな主人に苦言を呈するのも彼の仕事だわ。


 PTAにも無責任な親はいた。できないとか、休めないとか。だったら、できないなりに何ができるのか。休めないなりに、じゃあいつなら都合がつくのかを言わなければ、話し合いにもならない。

 トムはブライアンを止めることができないなら、どうしたら解決できるのか、アリシアさんに相談すべきだったのよ。

『確かにその通りだけど、妻である私の言うことも聞かない男なのよ。家令の言うことなんて聞くわけないわ』

 諦めのこもる小さなため息が聞こえました。

『そもそも、ブライアンには社交と、郵便の受け取りと確認くらいの仕事しか任せてないの』

 あらまあ。クソクソ旦那様は、任せられた仕事もしないクソクソクソ旦那様だったのね。

『それに、リースマン領の当主は私よ。あの人はただの婿だもの』

 なら悪いのはアリシアさんね。あなたが我慢して、すべて抱え込んだからこんな状態になってるんじゃない。

 って、あれ……。待って、これってブーメランじゃない。


「あのー奥様。今日はもう遅いです。続きは明日にしませんか?」

 ネリアがトムさんの後ろから心配そうな表情でこちらを見ます。

「あら、まあ。それもそうね」

 トムさんはほっとしたようにうなずきました。

「ごめんなさい。トムはできることをしてくれていたのよね。急に来て責めたりして悪かったわ。明日また話しましょう」

「はい、奥様」

 トムさんはそう言うと、頭を下げて部屋を出ていきました。

 私はネリアの後をついて客間に向かいます。それにしても、机の上の書類。

「郵便を振り分けるだけの簡単な作業すらしなくなったということなのね」


 どうしましょう、どこから手を付けていいか分からないわ。


 


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