12.お母さん、種明かしされる
「要するにね、私が一食と思っていた量では足りない予想なの」
カーミットさんはわたしの言葉にうなずいてくれている。
「あと、準備は連携が大事ね。一人が作業している間に、他の人も動いてないと間に合わないわ。つまり、ある程度予行演習が必要ね」
「それに食材の使い方、無駄がないやり方を覚えないと」
わたしは考えながらも思いついたままを、呟いてみた。
「まとめると、原価、時間、効率ですね」
カーミットさんはそう満足そうにうなずいた。どうやら彼の宿題の答え合わせとしてはできていたようだ。
そして新しく用意されたのは、この一週間のメニューと、そのために用意された食材についての帳簿だ。
「まあ、一食銅貨三枚ほどなの? 前回は四枚と」
「目安ですが……二十五食分を三日間。材料費は一食あたり銅貨三枚分で、時間は三時間を目安につくる。これが今回の宿題です」
カーミットさんってば、宿題って言ってしまっているわ。
「はい!」
ローランはしっかりとそれを大きくメモして、丸を書いている。
「いい返事ですね。次回は事業計画書を提出してください」
「でも、カーミットさんはどうしてここまでしてくださるの? 築堤工事のアイデアだけでは理由にならないわ」
そう言うとカーミットさんはにっこりと口角を上げた。
「はい。実は私、とある家の傍系なんです」
ポクポクポク……と音が聞こえてきそうな沈黙です。
「確かカーミットさんのお名前は、カーミット・ベルトマン……ああ!」
『ああ!』
チーンですね。ローランは何か思いついたようです。そして、同じタイミングでアリシアさんも。
「『ベルナール侯爵家』」
二人の声が揃いました。
『ベルナール侯爵家は、近い傍系に「ベル」を家名に入れることを許しているの。つまり、ベルトマンという名前は、侯爵家に近い傍系ということよ。なるほどそれで、商業について詳しかったはずよ』
「まあ!」
「あの……たびたび失礼しました」
ローランは深く頭を下げている。
「いえ、うちは名ばかりでしたし、私は家を出た身です。名前は名乗っていますが、政治には関わっていません。たまたま、幼馴染が五年ぶりに連絡をしてきまして……それで頼まれたのです」
「もしかして、頼んだ幼馴染というのは……ロバートさん?」
「……はい。面白い夫人がいると聞きました」
「おも……しろい」
どっちかというと、おもしろおかしいのは向こうです。って、言ったらきっと不敬だから言いません。そっと唇を噛んで我慢しました。
「確か今日の便で、来ると言っていましたよ」
「あら、わたしのほうにも『遊びに行きます』って手紙が来てたわ。本当に来るのね」
てっきり、社交辞令か何かだと思っていたわ。
「……お母様? 何をのんきな! それ相応の迎える準備をしなければ!」
ローランが急に慌てだしました。
「大丈夫よ、王都の幽霊屋敷にもひるまなかった人だもの」
「タウンハウスは幽霊屋敷なんですか?……私、次の春から学院にあそこから通う予定なのですが」
えっと、どう説明したらいいのかしら、つる草が壁に蔓延っていて、庭の草が伸び放題。門を開けるたびにギーっと金属のこすれる嫌な音が立つこと。灯りを使わないから全体的に暗いのよね。
『やめて、今はローランに現実を伝えないで』
アリシアさんが慌てています。
「大丈夫、中はきれいよ」
ローランは涙目です。あらまあ。
「ロバート兄上に言えば、よい業者を紹介してくれますよ」
「そうね、彼は物知りでとってもべ……」
『よしこさん!』
「……親切です」
アリシアさんがとても怒っています。
「では今日はどうぞ、お昼を食べて帰ってください」
わたしたちは、応接室を出て食堂へ向かいました。
食堂は二人掛けの席や四人掛けの席が並んでいます。入口でお盆を取り、配膳口にいくと、お盆の上にメインとスープが乗せられました。パンは自分で食べる分だけ取るようです。私は育ち盛りではないので一個にしました。
どの席に座ろうかと、見ていると。
あら……あらあらあら……見覚えのある後姿が、食堂ですでにご飯を食べていました。
「ロバートさん?」
彼は振り返ってにっこりと笑いました。
「来ましたよ、アリシアさん」
「……ひっ」
ローランが隣で小さく悲鳴を上げました。
「お隣に座っても?」
「……どうぞ」
「ありがとう」
わたしは挨拶をして、鮭のフリットを食べはじめました。さっくりと揚がっていてとてもおいしい。特にこのソース……何味なの? 醤油を感じるの……もう一度、調理場に突撃しようかしら。
「ここの食堂、おいしいですね」
「ええ、とってもおいしい」
つい笑顔になってしまいますね。ローランは心なしか震えていますが、ロバートさんは笑顔です。
どうしましょう。本当にロバートさんが来ちゃったみたい。




