09.お母さん、お金の使い方
「それでも、パロットさんが我が家に雇われてくれたこと、心から感謝しています」
わたしが礼を述べると、パロットさんは頭を掻いてうつむいてしまいました。
「あの、パロットさん、あなたは優秀すぎるのですが、もしかしてスキル持ちですか?」
「あ、はい。《算術》というスキルを持っています」
『まあなんてこと……彼を雇っていた貴族に良心はなかったようね』
アリシアさん、どういうこと?
『……スキルは貴族の血が混じってないと、顕現しないの。パロットさん自身は、平民かもしれないけど、何代か前に貴族がいるのよ。要するにスキルが発動することが貴族の血を受け継いでいる証拠となる』
というと?
『有用なスキルなら貴族の後見人を付けて陛下に奏上すれば、一代限りではあるけど、男爵位を得られるの』
それって……。
『パロットさんは、あえて平民のままにされ、安く雇える優秀な人材として使われていた可能性がある』
ひどいわ。
『ねえよしこさん、お願いがあるの……ここからは面接だと言って』
「パロットさん、突然ですが面接です」
隣に座っていたグエンさんがわたしの顔をまじまじと見つめました。
『パロットさんは……』
「パロットさんはリースマン領を好きになれそうですか?」
「え、面接? え……はい。好きになれそうです。領主がアリシアさんなので」
『これからも……』
「これからも、リースマン領のために働いてもらえますか?」
「はい、出て行けと言われるまで、いさせてください」
って、これは何?
『分かりました。ウォーレン・パロット。あなたを陛下に男爵位相当と推薦します』
「パロットさん、男爵になって」
パロットさんがこれでもかというほど、目を見開きました。
「……は?」
『我が領に囲い込みましょう。さあ、よしこさん。頑張って篭絡して』
「わたしも賛成です。彼が男爵位を受けてくれれば、私の仕事を引き継げます」
「……え?」
グエンさんにも熱心に見つめられたせいか、パロットさんは困ったように視線をさまよわせています。
「なって下さったらうれしいです」
「私が男爵ですか?」
「はい、断ってももう手放す気はありませんから、今日で説得できなければ明日、明後日も言い続けます。パロットさんはそんな効率の悪いことをお望みですか?」
そう言い切ると、グエンさんが拍手してくれました。
どうやら、この説得はパロットさんの職業倫理にクリティカルヒットしたようです。
「その前に説明をお願いします。なぜ私は男爵になれるのでしょう?」
そこからはグエンさんが、この世界のスキルと貴族の話をしました。パロットさんは深くうなだれてしまいました。
「パロットさん、あなたの今までの努力に、勲章を付けるだけです。難しく考えないで」
「いえ、越えられない壁が、貴族と平民だと聞いて育ってきましたので……いま世界がひっくり返っているんですよ」
「まあ、ひっくり返ってもあなたはあなたよ、変わらないわ」
「そう言えるのはアリシアさんだからです。……でも、分かりました。会計士だろうと、男爵だろうとアリシアさんにとって、私はただのパロットさんですからね」
「その通りです。でも男爵のパロットさんならもっと守れます」
「わかりました」
『やったー! よしこさん。よくできました』
アリシアさんが飛び跳ねているようです。
グエンさんは身を乗り出してパロットさんを抱きしめました。
あら、話がすごく脱線したのだけど。あれ? そう言えば。
「助成金の白金貨二枚は?」
「回収して土木ギルドに着手金として支払いました。回収したお金もあるので、あと白金貨五枚を貯めれば築堤工事が行えます」
「まあ一気に半分」
「待ってください。アリシア様、男爵位の推薦には白金貨一枚が必要です」
グエンさんが慌てている。
「それは私が出します」
パロットさんがいいましたが、え? 持ってるの? 驚きです。
「いいえ、パロットさん。これはアリシア・リースマンの矜持です。わたしが出します」
『よく言ったわ、よしこさん』
わたしはパロットさんの手を握りました。
「あなたにはそれ以上の価値がありますもの」
パロットさんはうつむいていた顔を上げました。そして素敵な笑顔を浮かべてくれました。
「じゃあ、そろそろ、ローランも心配しているでしょうし。会計室に移動しましょうか」
わたしたち三人は、のんびり廊下を戻りました。
扉を叩くと、ローランがすごい勢いで部屋から飛び出してきました。
駆け寄ってきたローランをなだめて座らせ、先ほど決まったことを報告します。
今回の白金貨一枚については、前回の銀貨のように責められませんでした。
ただ、父親を牢屋に入れたことだけは言えませんでした。
どうしましょう。すごく感動的なのに、またお金を使ってしまったわ。




