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お母さん転生する  作者: 大島Q太
商売のお勉強編
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07.お母さん、教わる

 


 わたしはアリシアさんが泣き終わるまで、これまでの経緯をお話ししました。とっても、眉唾な話ですが、スキルや魔石、治癒魔法なんてある世界だからか、グエンさんはすんなりと受け入れられました。


「グエンさん、力を貸して欲しいの。わたしは商売を始めようと思うの」

 そして、水路航行ギルドのカーミットさんや、ローランの話をした。

「ローラン様は、しっかりと責任を背負っておられるのですね」

 グエンさんは感慨深くつぶやいた。


「私でできることがあればお手伝いいたします。何をしましょうか?」


「まずは三日間。食堂を開くとして、計画書はどのように書いたら良いのかしら?」

「そうですね。目的を考えましょう。テーマでもいいです」

「目的……商会を作るためだけれど。それではだめよね」

「はい。商会を作るのに食堂である必要はありません。それに、そんな目的でできた食堂に行きたい人はいません」

 グエンさんはぴしゃりと言います。

『そうね、誰のための食堂なのかをまず考えなきゃ』

「誰のため。水路航行ギルドの人は国内のあらゆるところに行くでしょう。リースマン領が良いところだと宣伝してほしいわ」

 グエンさんはにっこりと笑いました。

「では目的はリースマン領の広告。そうなると、おのずと食堂で何を出すか。見えてくるのではないですか?」


「ああ、なるほど。そうなるとリースマン領の特産である。小麦と豆ね。それに……畜産もアピールできるかしら」

『あらグエンったら私が五歳だった頃と同じように話しているわ……』

 昔からこういう方だったの?

『ええ、よしこさん。五歳児扱いされているわよ』

 まあ、若返りすぎよ。

『若返ってはないわ。あなたは五歳児扱いされている二十九歳のアリシア・リースマンよ』

 ……痛い。


「グエンさん、アリシアさんがあなたの教え方が昔から変わらないと笑っているわ」

 グエンさんは驚き目を細めた。

「アリシア様もよい生徒でした。よしこさんも頑張りましょう」

「はい! 小麦粉ならグラタンと、うどんなんてどうでしょう」


 それからは質疑応答のような感じで、どんどんと計画書が埋まっていきました。

「リースマン領の広告食堂」

 一日目 グラタン

 二日目 うどん

 三日目 豆料理


「豆料理なのですけど、大豆ミートと言って、お肉の代わりに大豆を使う料理があります」

「なるほど、それは初めて聞きました。良い目玉になるのではないでしょうか」

 やった、なんだかここにきてわたしの知識がやっと役に立っているって感じられるわ。

「では一番大事な話をします。採算です」

 まあ、一番苦手なお金の話ね。

「三日間で利益を出すのは難しいでしょう。だからと言って赤字を出すわけにはいきません。これはきっと、アリシア様とよしこさんの試練なのでしょう」

「あら分かってしまうのね」

 グエンさんはうなずいて、カーミットさんが用意してくれた資料集をポンっと叩いた。

「ええ、分かります。この資料だけでは必ず壁にぶち当たるようにできていますから」

 グエンさんはコホンと咳払いをしました。


「この屋敷の料理にも言えることですが一番は人件費。カイラーと、マリークですね。次に魔石代です。これは煮たり焼いたりするコンロの熱源です。いわば光熱費ですね。そのほかにも場所代などもかかるかもしれません。これが、材料費とは別にかかります」


「つまり、料理そのものに掛かる金額のほかにも、必要なお金があるということね」

「そして、コストはお金だけではありません。時間もです。一発本番でするわけにはいかないでしょう」

「そうなると、計画は三日間のみを立てるのではなくて、その前の準備や練習期間も考えなければならないってことね」


 ああ確かに、カーミットさんの資料だけでは、練習にいつ厨房が使えるのかとか。調味料や什器などがそのまま使えるのかは書いてなかったわ。


「さすがね、グエンさん。でも真っ白な紙の上を迷っていたのが、やっと、道ができてそのうえで迷っているって思えるようになったわ」

『迷ってるのは変わらないのね』


「そして最後に、これらすべてをひとりでやろうとすると破綻します」


 アリシアさんが息を呑む音が聞こえた。

「どの作業を誰に任せられるか。それも決めましょう」

『私の弱点だわ』

 大丈夫よ、少なくとも、アリシアさんとわたしは助けあっているもの。


 心を決めて、グエンさんをまっすぐ見返します。


「まず情報はわたしができるだけ集めます。それはグエンさんも手伝ってください。そして、試作はカイラーとマリークに。原価の計算などは、ローランとパロットさんに。大事な試食はみんなでしましょう」


「今はそれでいいです。計画というのは変わることも頭に入れておいてください」


 グエンさんはにっこりと笑って話を終わらせた。

 わたしはまた、いまだ真っ白な紙を見つめた。ここに事業計画を立てる。どうしてすぐに書き込もうとしたのかしら、その前にたくさんの元になるものを決めていかねばならないのに。

 この白い紙を埋めるのは最後ね。


「ところでグエンさん。小麦粉の一キロ当たりの平均価格は?」


 こうやって一つずつ、確認していこう。

 どうしましょう。商売って大変なのね。



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