20.お母さん、思い返す
すっかり夜も深くなり、領主邸は静寂に包まれました。
「アリシアさん?」
『なあに? よしこさん』
今日はソフィア頑張ってたわね。
『ええ、ほんと。ずっと小さいままだと思っていたら、いつのまにか大きくなってたわね』
わたしは、布を正方形に切ります。これ、つまみ細工の材料です。カチューシャが売れたらうれしいけど。さらにあればもっと売りつけることができるかもしれません。少しずつ、コツコツと。
「子どもって毎日大きくなっているから、目を離すとすごく大きくなったように感じるわね」
最初聞いた時は、反抗期と乳母べったりだったかしら。
でも、ローランは反抗期だけど、次期領主として努力を惜しまない子だし。ソフィアはちゃんと人を見て自分の振舞いを考えていたわ。
二人とも賢い子。
小さく布を切っていきます。
「それに、このリースマン領の皆さんはほんとに勤勉ね。話し合いをすればちゃんと聞いてくれる。奥様達は昼間もしっかりと子どもを育てて、お仕事をなさってる。この厳しい環境だからこそなのかしら……すごく好きよ」
『ええ、我が領の財産は人かもしれないわね』
「かもしれないじゃない。財産よ」
フフッと笑うと、アリシアさんの笑い声も聞こえてきました。
領主邸の皆グエン、カイラー、マリーク マーリン。それにスコットさん。パロットさんみんないい人。
『よしこさんのおかげでカイラーやマリークの性格がわかったわ』
あの子たちはただの食いしん坊ね。
だからこそ、この領を守るためにも本当に白金貨八枚。集めたいわ。いいえ、集めたいじゃない。集める。
「もうアリシアさんのためじゃなく。わたしのために白金貨を」
『よしこさん、ありがとう』
「ありがとうを言うにはまだ早いわよ。だって、なにも計画が立ってないんだもの」
『それもそうね』
村の奥様達が忙しかったのは、惜しかったわね。手が空いてればつまみ細工を一緒にしたかったわ。そしてそれをロバートさんに吹っ掛けて。
『よしこさんって、ロバートさんにだけはあたりが強いわよね』
「だってあの人、買ってくれるでしょ」
『そういうところよ』
「ふふふ、そういうところね。あの人、根っからの商売人じゃない。そこに信用が置けるのよね」
そしてもう一人のお金持ちを思い出します。
「逆に、公爵様は少し怖く感じるわ」
『あら』
「あの方が見えているのは、公爵家の事情と、奥様やご家族だけでしょう。わたしはあの人に、アリシアさんを傷つけられるのが怖いわ」
『大丈夫よ。なんてったって、私。クソクソクソクソクソ旦那もちの既婚者だもの』
あら、数が増えてる。
わたし今思うと、分かるの。
こうやって日々あったことや、愚痴を分かち合いたかったんだなって。家族のためって背負ってたけど、そんな姿を見て欲しかったんだわ。
『……よしこさん』
まあ、何が言いたいかって言うとね。こうやって毎日寝る前にお話しするでしょ。それだけでわたしは明日も頑張れる。わたしが頑張りたいって思えるのよ。
『よしこさんが六十一年頑張ってきたことは、ちゃんと残っているわ』
「そうそう、最後に温泉とカニよ」
そして切り終えた四角い布を箱に仕舞っていきました。
今はまだきっとこの状態だと思っているの。下準備……あとはそれをひたすら折って縫って形にしていけば、花になり、飾りになる。
たくさん作って売りつけましょう。
どうしましょう。今日はちょっとしんみりしちゃった。




