19.お母さん、仕上げる
「おにいさま、わたし赤ちゃんのお世話をしたのよ」
ソフィアは声を上ずらせながら、報告しています。ローランはそんな妹の頭を撫でて褒めていました。可愛いです。
「赤ちゃんを背負って、山に登ったの。こーんな山よ」
ソフィアは両手をいっぱいに広げます。ローランは目を細めながら「それはすごいな」と言っていました。兄弟の仲が良いのは、よいことです。
わたしはそんな二人からそっと離れ、厨房に向かいました。
「カイラー。今日はイモもちと、うどんを作るわよ」
中に入ると、マーリンと、マリークもいました。
「二人とも、今日は片栗粉づくり、ありがとう」
二人に任せた作業は、ジャガイモから片栗粉を作る作業です。
「奥様、今日は息子と楽しく過ごせました。ありがとうございます」
マーリンがそう言って頭を下げるので、マリークも慌てて頭を下げている。
「こちらも、二人で過ごしたいなんてわがままを言いました。でも、また言うと思うわ」
「分かっています。ソフィア様も、もう八歳ですから」
マーリンは少し寂しそうに笑いました。マリークがそんな母親を見つめています。
「さあ、カイラー。まずはうどんよ」
うどんはシンプルです。小麦粉に塩。少しずつ水を混ぜて、粉っぽさが少し残るくらいで、ぎゅっと押してひとまとめにします。ここら辺の加減は、日本でやっていたので目分量です。
そして、綺麗にまとまれば後は、袋に入れて踏んでもらうだけ。
「食べ物を踏むんですか?」とカイラーはこわごわ踏んでいたみたいですが、それがうどんのコシになるのでしっかり踏んでもらいました。日本では玲奈ちゃんが張り切ってやってくれていました。
あとはいったん寝かせます。
「なんか、見たことのない調理法ですね」
カイラーは感心し、マリークはメモを取っていました。
「続いてイモもちです」
「はい!」
こちらはジャガイモを茹でてつぶし、片栗粉と塩を入れて滑らかになるまで混ぜます。硬さは牛乳で調節し、平たく丸めたら焼いていきます。
「ああ、確かに……コロッケに比べたら簡単ですね」
わたしはカイラーの言葉にうなずきました。本当は醤油と砂糖を混ぜた甘辛いタレに絡めるのが好きだけど、この世界ではまだ醤油を見つけられていません。だから今日は味付けにバターを使いました。
「はい、焼き目がついたら出来上がりです」
そして、最後に仕上げです。
台の上に寝かせていたうどんを広げて伸ばします。粉を打ちながら畳んで細く切っていきました。さっと粉を払ってまとめていきます。
「これがうどんです」
カイラーが手を伸ばすので慌てて止めた。
「このままでは食べません。これは茹でて食べます」
大きな鍋にお湯を沸かして、うどんを入れ混ぜます。うどんのゆで上がりは麺の艶を見ます。
「カイラーざるを用意して」
「はいはい」
お湯のたっぷり入ったお鍋は重かったので、カイラーにしてもらいます。そして、うどんをたっぷりの水でゆすぎました。この作業をしないと、余熱でうどんが柔らかくなってしまいます。いわば締める作業ですね。
「これで正真正銘出来上がりです」
カイラーと、マリークが手を叩いて完成を祝ってくれました。
「ここまでくれば何をしてもおいしいです。バターうどんでも、牛乳とチーズのうどんでも、濃いめのブイヨンをお塩で味付けして麺を浸しながら食べてもおいしいです」
「聞くだけでおいしそうです。全部やってみましょう」
カイラーは、さっさと材料を集めてきます。
「では、カイラーもマリークも今日は食堂で一緒にいただきましょう」
食堂にはすでに、ローランと、ソフィア。パロットさんが集まっていました。グエンさんとスコットさんも呼んでもらいます。
「マーリンも座って頂戴。今日はみんなで食べましょう」
皆におうどんと、イモもちをふるまいました。
「お母様、なんだか不思議な食べ物ですね」
ローランがしげしげとみています。
「それうどんっていうんだ。すごくおいしいよ」
と言ってくれたのはパロットさんです。たしか、王都でも食べてもらいました。
「おかあさま、イモもちおいしいです。これはマーリンが頑張ったのでしょう」
ソフィアはそう言って、イモもちを二個、ぺろりと食べていました。
「うどんはいいですよ。作る手間と時間はかかりますが、材料はシンプルで原価が低い。問題なのは水をたくさん使うことですが、リースマンでなら気にする必要はないかと思います」
カイラーは、そうローランに報告していました。あら、ちゃんと見られていたのね。
「イモもちは味付けがシンプルすぎるので、改良する必要がありますね。いまいち、おやつなのか食事なのか分かりませんし」
マリークは三個も食べておきながらそう言いました。
それにしても、にぎやかな食事です。
どうしましょう、わたし、なんだかほんとに馴染んできたみたい。うれしいのになんだか胸が熱いです。




