18.お母さん、ただ楽しむ
「こんにちは、今日もお天気がいいわね」
「あら、領主さま」
秒でばれてしまいました。
「アリシア・リースマンです。こちらは娘のソフィアです」
「こんにちは、ほんと良い天気だこと」
夫人はにっこりと笑って、ソフィアにも微笑みかけてくれました。彼女の後ろには、ソフィアより少し大きいくらいの子が、赤ん坊を抱いて立っています。夫人はわたしの視線に気づいて振り返りました。
「ああ、この子はうちの子です。大きい方がリリー、赤ん坊がシシーです」
ソフィアはわたしの手を離さないけれど、一歩前に進んで、赤ちゃんを覗き込みました。
「あかちゃん。かわいい」
「かわいくなんかない。うるさいし重いし」
「まあ、リリー!」
リリーはフンッと母親を睨みます。
わたしはしゃがんでリリーをみつめました。ぎゅっと、シシーを抱きしめ守ろうとするあたり、かわいくないは本心ではないみたい。
「リリーは優しいお姉ちゃんなのね。シシーは安心して寝ているわ」
「……ちがうし」
そう言いながらも、リリーはシシーの頭をそっと支えていました。
ソフィアはそんなリリーの顔をじっと見ていました。
「ところで領主様、今日は何の用事ですか?」
「ああ、お昼の間、奥様達が何をしているのか知りたくて伺いました」
「何してるかって……いろいろだねぇ」
夫人は手元の洗濯物を絞りながら、困ったように微笑みます。
「そうよね。一つ一つの作業に名前なんてついてないわよね。大きく言えば洗濯や掃除でも、洗濯には洗って干して畳んでの作業があるし、掃除には拭いて、払って整理してなんて細かな作業がありますものね」
しかも、それらをまとめて家事と呼ばれる理不尽。
「まあ、領主さま分かってらっしゃる」
と言ってワハハと笑い出しました。するとすぐに、第二奥様登場です。彼女も洗濯物を抱えています。
「あら領主さま」
こちらの夫人にもすぐにばれました。仕方がないので笑いました。そして気付けば、村中の奥様達が集まってきていました。
わたしも張り切って洗濯を手伝います。
ああ、灰汁で洗うのね。
そうよ、石鹸。石鹸も確か。簡単に作れたはず、玲奈ちゃんが見ていたアニメでは、貝殻と海藻だったかしら燃やしたものを油に混ぜて……。確か石になるアニメでやっていたのがそんな感じだったわ。
作ったことがあるのは、グリセリンソープを溶かして固めるだけだから一から作ったことは残念ながらないわね。
「お……おかあさま」
ソフィアの声で、はっと顔を上げました。
「リリーが遊びに行っちゃった」
振り返ると、ソフィアはシシーを抱いていました。
あらあらまあまあ。奥様達は声をそろえて笑っています。
「引き受けたのなら、責任もってできるとこまでしましょうね」
ソフィアは下唇を噛んでうなずきました。彼女なりに責任を感じたようです。
村の女性たちは、洗濯を終わらせると今日は山に入るようです。せっかくなのでついていくことにしました。山道でシシーを抱いたままでは危ないので、どうするのかしらと思ったら、ソフィアが「わたしが背負います」と言いおんぶ紐で背負いました。今日だけでなんて立派になったんでしょう。
山での仕事は、薪拾い。山菜採り。木の実拾いと多岐にわたっているようです。
「そう言えば、カイラーがクズの根があると……」
「あれはもうちょっと寒くなってからよ。今はせいぜい蔓が採れるくらいかしら」
「あとはこれね」
奥様たちが熱心に拾っていたのは、木の実とキノコでした。
「特にこれがおいしいのよ」
そう言って見せてくれたのは緑の木の実です。
「なんです?」
「くるみです」
剥いたものしか見たことがなかったから驚きです。
わたしがいちいち驚くので奥様達は苦笑いでした。そしてクルミやキノコを三袋ほど集めると山を下りました。
「まあ、一応獣もいるからね。長居は禁物だよ」
ソフィアも子守を頑張っていましたが、帰りはシシーを奥様にお返ししたようです。
ですが、なんだか誇らしげな顔なのが可愛いです。
『ソフィア、頑張ったわね』
アリシアさんが小さくつぶやきます。
せっかくだからと、お昼ご飯を頂いて帰りました。
ええ、なんだか。特別すごいことがあったわけではないですが、村の女性たちの逞しさを感じました。
家に帰る荷馬車でソフィアは寝てしまいました。満足そうに微笑む寝顔も天使でした。
その後、ソフィアは何度も次はいつ行くのかと聞いてきました。
どうしましょう、すごくすごく楽しかったです。




