17.お母さん、ソフィアとお出かけ
会議も終わり、皆自室に戻っていきました。
ローランは扉の前に立ってこちらを見ています。
「お母様、明日の予定は?」
「今日は畑を見たでしょう。ですから明日は村を回ろうと思っていますが、ローランはお留守番。机に向かって勉強してください」
あら、不満そうに顔を背けました。ついてきたかったみたいね。
「あなたはほんとうに頼りになるわ。だけど明日は家庭を回ろうかと思っているの。あなたみたいなかっこいい子が現れたら、皆舞い上がっちゃう」
ローランは小さくうなずきます。
「明日は、ソフィアを連れていくわ」
「ソフィアをですか?」
「あの子にも学ぶべきことがあります」
「分かりました。失礼します」
ローランは部屋を出ていきました。
本当にしっかりしてるわ。大人すぎるのがちょっと心配だけどね。
うちの直樹とは大違い。三十八歳になってもいまだにお嫁さんの愛子さんだよりで、一人で何もできないのよ。あの子が十二歳の頃なんて……、滑り台でズボンに穴を開けてたわ。
いつまでも子ども扱いしてしまってうっとおしがられてしまって、お嫁さんに迷惑を掛けちゃった。
『よしこさん……ローランをよく見てくれてありがとう』
どういたしまして、あなたたちはよく似ているから頑張りすぎちゃうのね。
とっても頼りになるわ。
そして、小さくあくびをしました、夜はどこにいても静かです。
* * * *
「ソフィア、今日はお母様とお出かけしましょう」
朝食の席でそう切り出しました。マーリンがにらんでいますが気にしません。
「おでかけですか?」
視線をマーリンに向けようとしました。
「ソフィア、あなたが考えて。お母様とおでかけしたくない?」
「……したいです」
まっすぐと視線が返ってきました。
「じゃあ、決まりね。マーリン、汚れてもいい服に着替えさせて」
「……はい、奥様。わたしも」
「あなたはお留守番」
マーリンの顔がかげりました。
「マーリンはマリークの手伝いをお願い。今日は重要な任務を与えているの」
マーリンは戸惑った顔で、ソフィアをみつめます。きっと、ソフィアがマーリンと行きたいと言ってくれないかと期待しているのでしょう。
ですが、ソフィアはもう目の前のご飯に夢中です。
あきらめてうつむいてしまいました。
食事を終わらせ、玄関で待っているとソフィアが準備を済ませて現れました。
「奥様、わたしもついていきます。ソフィア様が……」
マーリンが申し出ます。
「いいえ、あなたはここに残って、マリークの手伝いをお願いします」
「わたしに娘との時間をもらえないかしら」
マーリンはスカートをぎゅっと握ってうつむきました。わたしはそれを了承と受け取って、ソフィアの手を握ります。
「では行ってきます」
マーリンの後ろには、ローランも立っていました。
見送ってくれるようです。外はとびっきりの晴れた空、お出かけ日和です。
「ソフィア、帽子をしっかり被ってね。暑かったらちゃんと言うのよ」
「はい!」
ソフィアは振り返ると、無邪気に皆に手を振りました。
マーリンは視線を鋭くこちらを見ていました。
ちょっとやりすぎたかしら?
『いいえ、大丈夫よ、ありがとう。よしこさん』
* * * *
わたしも王都で活躍した灰色のワンピースに生成りのエプロンです。ソフィアもそれに合わせて、綿のワンピースにサンボンネット。
今日は昨日とは違う村に行きます。さすがに、昨日の村は顔を覚えられていそうなので。
ソフィアは馬車に揺られるのも楽しそうです。よかった、わたしといることを楽しんでくれているみたい。
到着した村の外に馬車留めがあったので、そこに荷馬車を置いて村の中を歩きます。
建物は十軒ほど、同じような形が並びます。村には広場と公民館兼教会があるようですね。これがリースマン領の一般的な村のようです。川が長雨のたびに形を変えるせいで大きな集落はないそうです。
『家は移動できる作りになっていて、壁や屋根を板に戻して、運べるようになっているのよ』
アリシアさんが教えてくれました。なるほど、生活の知恵ですね。
女性が集まる場所と言えば、井戸です。井戸端会議なんて言葉もあるくらいですから。
ああ、でもこの緊張感、児童館デビューをした時を思い出します。ママ友できるかな? なんてドキドキしながら通いました。
いました、第一奥様発見です。
どうしましょう、ほんと。ソフィアの手を握りました。




