14.お母さん、コロッケをつくる
家でつくっていた頃もコロッケって手間のかかる料理でしたが、この世界でつくるのもまた手間でしたね。
主な材料は、ジャガイモ、玉ねぎ、ひき肉それに、小麦粉、卵、パン粉。
「マリーク。ジャガイモはゆでてつぶしてくださる?」
「はい」
「それから、ひき肉は……」
「これを使ってください」
カイラーが出してきたのは、骨付きのお肉の塊。
二人がかりで骨からスプーンでお肉をこそげて使いました。良いお肉を刻むのは申し訳なかいかもというとでてきました。それに、こそげたお肉の方がうま味が強いかもしれません。それにしても、骨になってしまうと何の肉か分かりませんね。
ですが、とっても贅沢です。
「そしたら、刻んだ玉ねぎとひき肉を炒め合わせます」
あら、お塩で味付けして、それをマリークにお願いしたジャガイモに混ぜます。少し量が多かったので、つぶしたジャガイモを少し横に除けておきます。
「あとは、少し冷ましてから形を整えていきます」
「へー奥様、ほんとに練習されたんですね。手際が良い」
カイラーが感心したような声を上げます。
「ふふふ、そうなの。じゃあ先にさっき除けたジャガイモをポタージュにしましょう」
「なるほどっすね!」
「骨があるなら、出汁もあるわよね?」
「ブイヨンっすね」
どうしましょう、カイラーって打てば響くわ。とっても有能。
ジャガイモに目分量の牛乳、ブイヨンを混ぜて塩コショウで味を付けた。
「へー、カンタンっすね」
マリークもやってきて、何やらメモを取っています。
あら、でもやっぱり味付けが難しいわ。日本ならコンソメキューブがあるから一発なのに。
「ちょっと、味を見て。カイラー」
カイラーはちゃんと新しいスプーンを持ってきて味を見てくれます。
「ああ、これは……」
そう言って、何やらはっぱを刻んで混ぜた。
「あら、格段においしいわ」
「これはいいスープっすね。ジャガイモなら原価も低いし。うちの貧乏厨房にぴったりだ」
「ああ!カイラーさん。奥様の前で!」
マリークが慌てている。
「いいのよ、その通りだから」
そして、コロッケのタネが冷めたら形を整えて、小麦粉、卵、パン粉の順でつけていきます。
パン粉もガリガリとパンを削りました。小麦粉もゴリゴリ石臼で挽きました。すべて力がいります。厨房に男性が多いのも納得ですね。それにしても、日本の環境がいかに恵まれていたかを思い知らされます。
「ではここまでできたらあとは、揚げていきます」
「なるほど、贅沢ですね。大量の油をつかうとは」
「油は……貴重なの?」
「ええ、はい」
聞くと驚く値段でした。大きな声では言えませんが、一瓶で銀貨一枚だそうです。
「でしたら、揚げ焼きにします」
……そうなの。油は貴重なのね。なら、ヒマワリ油や、紅花油なんてどうかしら。紅花油なら、紅花も取れるし……。ひまわり畑は遊水地につくるといいかも、紅花は確か高地でないとだめだったかしら……でも、山の斜面ならよかったはず……おぼろげな知識しかないわ。
そんなことをつらつらと考えていると、カイラーが声を掛けてきました。
「奥様、どれくらい焼いたらいいですか」
「えっと、キツネ色……キツネっているのかしら」
そう悩んでいる間に、良いタイミングで返してくれました。任せたほうが良さそう。
厨房内は香ばしい、いい匂いが漂っています。
「ああ、なんかおいしそうですね」
カイラーがごくりと喉を鳴らします。
「食べてみます?」
「はい!」
カイラーはかぶせ気味に返事をして、ルンルンとコロッケを全方向から見つめたあと、ぱくりと食べました。目がきらきらと輝いています。
「うまいです!これ!」
「よかった」
あらやだ、また顔が光っているわ。
「カイラーは食べること全般が好きなのね」
「ええ、小さいころから飢えてましたから」
まあ、なんだか。領主として申し訳ないわ。
「なので、料理人は俺の天職っす」
こういう子はすぐに上達します、上達してたわね。頼もしいわ。
「味見にしては、量が多いわよ。カイラー」
「ええ、味はしっかり覚えました」
隣でマリークもほっぺを膨らませて、おいしそうに食べています。
「これがコロッケよ」
二人が揃って拍手をしてくれます。私は胸を張りました。
「これだけあれば、今日の夕食は足りそうじゃない?」
「そうっすね。今日はこれをメインにさせていただきます」
カイラーはうなずいて、残りも揚げはじめました。
なんと、領主邸のパンはカイラーの手作りだそうだ。
「すごいわ。今度教えてくださいな」
「いいっすよ」
「あ、でしたらうどんの作り方を教えるわ!」
「なんすかそれ!」
カイラーは、大げさなリアクションで笑っている。
どうしましょう。ここにきて素敵な料理仲間ができました。




