13.お母さん、料理人と会う
なぜか帰りの荷馬車は重苦しい雰囲気です。
「お母様、今日は白金貨八枚をどうやって稼ごうかと、視察に出ました」
「はい」
「結果、家畜の飼料を銀貨一枚で買いました。マイナス銀貨一枚です」
「……はい」
「そもそも、リースマンには商業ギルドがありません」
え?そうなの?
『ええ、そうね。取ったらそのまま商人に渡して、売れた分だけお金をもらうのよ』
在庫の管理は?
『家令のトムよ』
ああ、よかった。もしもそこまでブライアンだったら、目も当てられないわ。
「王都にも商業ギルドが管理している座というものがあります。これは不正な取引が行われないように監視する役目があり、勝手に商売させない仕組みです。お母様はどうやって商売をするつもりですか」
「ローランはちゃんと勉強していたのね。すごいわ。十二歳とは思えない」
「……はあ?」
ローランはがっくりとうなだれてしまいました。
「今言っている話は全て、領主教育を受けている嫡子の一般教養です」
『いいえ、一般教育以上よ。本当にこの子は……まじめに勉強してくれていたのね』
アリシアさん声を震わせ、言っています。
この親子、ほんとに真面目で努力家なところがそっくりね。
「……照れ隠しね」
「ほんと、そう言う分かった風に言うのやめてください。腹が立ちます」
ローランはそれ以降しゃべってくれなくなりましたが、少し耳が赤いのは本当に照れていたのでしょう。
さて、トウモロコシと、ジャガイモはどう料理しましょうかね。ひとまず、トウモロコシは、乾燥させて粉にして。ジャガイモはフライと、直樹も好きだったコロッケを作ってみましょう。
* * *
「奥様、馬たちの飼料は足りております」
スコットさんが荷馬車の箱を見て言いました。
「スコットさん、これは馬のエサではありません」
「ほ?」
「これからお金になります」
「なんと」
スコットさんは大げさに驚いて見せる。それがおかしくて笑っていると、ローランが大きくため息を吐いた。
「……予定です」
「棘があるわね」
「スコットさん、ジャガイモは日光と湿気が大敵です。涼しくて暗い場所に保管してほしいです。あと、その時にリンゴを何個か一緒に置いておいてください」
「まじないですか?」
「そんなところです」
「トウモロコシの方は乾燥させたいので……風通しの良い場所に吊るしたいわ」
スコットさんはうなずいて、庭の倉庫を貸してくれました。
「ただいま帰りました」
「おかあさま、おかえりなさいませ」
ああ、天使が待っていてくれました。ぎゅっと抱きしめます。この子のためにもこの計画必ず成功させなければと、思います。もちろん、ローランのためでもあります。
わたしはジャガイモを抱えて、厨房に向かいました。
「奥様、このようなところにどういった御用ですか?」
出迎えてくれたのはひょろっと背の高い男の子たちです。どうやら、声をかけてくれた子が料理人で、もう一人の子が助手のようですね。
確か名前は『カイラーと、マリークよ。マリークは去年の春から厨房で雑用をしてくれている。マーリンの息子さんよ』
カイラーはそばかすが浮いた顔は幼く見えますが、二十代でしょう。マリークは十代後半に見えます。
あら、言われてみれば、似ている……かしら。よく分からないわ。
「ごめんなさい、突然。カイラー、ここでお料理を作ってもいいかしら」
「奥様がですか?」
「……ええ」
「あのリンゴを剥くのに、身より皮の方が厚かった奥様がですか?」
そうなの?
『ええ、そうね』
「実は練習したの」
カイラーは黙って私の顔をじっと見つめました。わたしも嘘がばれないように応戦します。
「……分かりました。あとちょっとしたら夕食の準備を始めようと思っています。それまででしたらどうぞ」
「あ、カイラー。よかったら一緒に作りましょう。わたしどこに何があるかまでは把握できていないので」
「あーはい」
カイラーはそう答えると、エプロンのひもを結び直していました。
コロッケの作り方は、あのアニメのオープニングが参考になります。
「……奥様、その歌は何ですか?」
「これはこれから作るものの、作り方を歌にしたものです」
「なるほど、手順を歌にすることで覚えやすくするわけですね」
「そうですね、先人の知恵です」
カイラーは面白そうに、まねをしました。
「それよりほんとに大丈夫なんですか?」
カイラーはなかなか包丁を持たせてくれませんでした。
わたしが玉ねぎのみじん切りをして見せると、やっと信じて包丁を託してくれました。
どうしましょう。それにしてもコロッケってホントやることが多すぎない?




