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お母さん転生する  作者: 大島Q太
領地子育て編
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33/69

09.お母さん、算段する

 

 楽しい時間でしたが、最後にいただいた見積もりが、たいへん楽しくありません。

「黒金貨一枚?」

『よしこさんの世界で言う1億くらいかしら』

 助成金は白金貨二枚です。ということはあと、白金貨八枚が必要ってことですね。ですが、何度見ても削れそうなところはありません。材料費、妥当。人件費、妥当。工事期間、妥当。

 あらまあ……。

『白金貨一枚一千万円。ですから、残り八千万円ですね』

 前世でも見たことのない金額です。


 わたしはすっと、紙を滑らせてローランの前に置きます。ローランもじっくりと見て、見積もりを伏せました。


「あの……まずは着手金を白金貨二枚払って、残りは分割でもよろしいかしら」

 土木ギルド長のカルロス・バーナードさんと、水路航行ギルド長のカーミットさんが一斉にわたしを見ます。そうです、本来なら助成金白金貨二枚出れば、ちゃんと手元には黒金貨1枚分の現金があるはずなのです。なぜなら、今年は築堤工事の年だからです。

 そのために質素倹約で貯めていたはずが……まさかっ! それがっ!……無くなっているなんて。

 誰が悪いか……クソクソクソクソ旦那です。

 ほんと引きちぎって、その血で『クソ旦那』って書道したいくらい。きっと、才能アリをもらえるわよ。


『なんだかほんとに、わたしは見る目がなかったようね』

 いいえ、人は生きているうちに変わっていくものです。出会った頃はまともでも、その後に付き合う人間で変わることもあります。あなたの夫はたぶん、領に押し込めておけばいい夫だったのでしょう。でも、王都に出て、社交をはじめて変わってしまった。それは予測できないわ。


 わたしも夫と結婚するときは真面目で朴訥。浮気なんて絶対できないって思ってたのに。浮気するわ、相手は妹だわ。そのうえ、子供まで押し付けてきたのですから。

『……』

 あらやだ、深刻にならないで。もうわたしにとっては終わった人生です。


「リースマン伯爵。言いづらいのだが、うちも従業員の給料を払わねばならない」

 バーナードさんはそう申し訳なさそうにつぶやきました。

「分かりました。でしたら期限はありますか?」

「二月までにもらえれば、春の工事に間に合う」

 あと、四か月。ひと月、白金貨二枚ね。

「ぎりぎりになってもよいかしら?」

「払ってくださればそれで大丈夫です……ただ、間に合わなくても着手金の白金貨二枚は返せません」

 それは当然ね、それできっと材料を集めるのでしょうから。


 わたしはもう一度、見積書を読んでみます。ちょっと振ってみましたが、0が一個減ることはありませんでした。

『よしこさん?』

「お母様……」

 似たような声で突っ込まれました。親子ですね。


 ああああ! 待って、白金貨二枚を払うと言ってしまいましたが、まだ回収できていません。


「ちなみに、白金貨二枚の着手金の期限はありますか?」

 バーナードさんは、目を見開いて探るようにわたしを見ます。わたしは微笑んで受けて立ちました。


「……今月中です」

「分かりました。その支払いは後日、必ずさせていただきます」

 クソクソクソクソ旦那め。

 今月中に白金貨二枚。今後、二月までに白金貨八枚、月計算だと毎月白金貨二枚を稼がねばならなくなりましたわ。真っ白だわ。計画も、白金貨も真っ白。


「そういえば、工事の算段はつきそうですか?」

 そう言うと、さっきまで空気だったカーミットさんが立ち上がりました。

「ええ、これがうまくいけば、築堤工事に革命が起きます!!」

 わたしに受け止め切れる熱量では無かったので、にっこりと微笑み返すだけにしました。

「カーミットさん、頼りにしています。もちろん、試作その他もろもろは……す・べ・て、水路航行ギルドで持ってくださるのですよね」

 主にお金もですよ。

 カーミットさんは、興奮のまま大きくうなずいています。

「ええ、しっかりと試作させていただきます」

 そう言って、バーナードさんとがっちりと握手をされました。言質取れました。

「(ではそちらの経費は)よろしくお願いします。(諸経費)頼りにしていますね」

 これには心から微笑んでおきました。


 横からローランの視線が突き刺さります。


 えっと、お金。お金。

 そうだ、愛人の宝飾品と、ロバートさんよ。彼にまた連絡を取ってみましょう。あとは……『公妾』ね。でもこれは、最後の手段よ。


 そして、わたしたちは帰り際、土木ギルドの皆さんの働きぶりを見学しました。みなさんとっても働き者なので、工事については憂いはなさそう。

 そして、荷馬車に乗って水路航行ギルドに寄って帰りました。

 カーミットさんもなんだか、すごく興奮していろいろ請け負ってくださいました。あとで怒られても、もう、その時です。


 そして、ローランと、二人でリースマン邸に戻ります。

「お母様、今日は本当に机の上では学べないことを学べました」

 ローランはぽつりと、呟きました。

 まあ、なんて素直で賢いのでしょう。

「人に試作と経費を擦り付ける手腕。見習わないといけませんね」

 あら、嫌味だわ。

「学ぶべき場所は他にもあったでしょう」

 そう言うと、ローランは声を出して笑い出しました。


 どうしましょう。ローランの教育には良くなかったのかしら。


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