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お母さん転生する  作者: 大島Q太
領地子育て編
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07.お母さん、工事を提案する

 

 わたしが描き込んだのは、S字カーブに流れる川を、ゆるやかなカーブにつなぎ直す案でした。三日月湖が二個できるわね。


「リースマン伯爵。これでは、流れがきつくなって川が荒れ、船の航行が安定しません。増水時には勢いを増した水が下流の街を呑み込むことにもなりかねない」

 カーミットさんは唸るように言い、周りの職員たちも頷き合っている。 だがその視線はしっかりと話を聞こうとしてくれていました。やはり、水路航行ギルドに来てよかった。


 わたしはいったん深呼吸をして、ゆっくりと思いだす。

「ここに水の中の流れを緩やかにするための道具を沈めます」

 ああ、ここで固有名詞が出てこないわ。何だったかしら……。でも説明はできる。

「木を立体の三角に組んで、重しを付ける。この三角の間を水流が通ることで自然と直線だった流れが渦を巻いて流れが緩やかになるはずなの」

 カーミットさんは、腕を組んで目をつむってしまいます。

「んーー……ですが、増水した場合の水の量は変わりませんよ」


「それはまた別の話よ」

 わたしは新しく地図のS字カーブの上あたりを丸く鉛筆で囲む。

「この辺りはたびたび水没するから、人は住んでいません。ですから、ここを遊水地にするのよ」

「遊水地……?」

 カーミットさんが聞き返してきました。

「わざとあふれさせるの」

「……わざと」

「……水の逃げ道ですか」

 ローランが、ぽつりと呟きます。

「そう、逃げ道よ。ローラン、大正解」

 わたしはローランに微笑みかけてから、カーミットさんへと視線を戻しました。

「増水した時に、川の水をすべて堤防の中で受け止めようとするから決壊するの。だったら最初から、あふれても被害がない場所へ『あえて逃がしてあげる』ようにする。そうすれば下流に流れる水を上流であらかじめ減らすことができるはず」

「結果、下流には大量の水が行かず、洪水が起きにくいと」

 ローランがわたしの言葉を受けてつぶやく。うちの息子は賢いわ。


「その方法だと、流れが川の中央に集まることになりますね。今やっている浚渫が最低限で済む?」

 しゅんせつ? 何かしら。


 カーミットさんが不意に目を見開き、食い入るように地図を覗き込みました。 さすがは現場の第一線で航路を守るプロだわ。何やら思いついたみたい。

 しゅんせつ大事よね。

「魔法みたいですね。これが叶えば毎年かかる浚渫工事の費用も抑えられる」

 誰も説明してくれないわ!

「あの、カーミットさん、しゅんせつとは?」

 ローランがわたしの代わりに聞いてくれました。

「大型船舶が通るためには、一定の深さが必要でね。深さを維持するために川の底を浚う工事のことです」

「まあ、なんてこと。工事ということはお金が掛かっていたってことね」

 ローランが目を細め、あきれを含んだ目でわたしを見てきます。母を見る目ではない温度ですね。


「リースマン伯爵。この話。技術部に渡して検討させてもらってもいいでしょうか?」

「……もちろん」

 わたしが大きく頷くと、カーミットさんはガタッと椅子を蹴るように立ち上がり、深々と頭を下げました。それにつられるように、その場にいたギルド職員たちも次々と頭を下げます。


「このような素晴らしい案を、無償でいただけるとはありがとうございます」

 はて?

『そうね、商業ギルドに今の案を登録すれば、ひと財産築けたかも』

 アリシアさんの声が聞こえてきました。

 あら、そんなことまで登録できるの……すごいわね。まあ、なんてこと……でも、川で困っているのはうちの領だけではないのでしょう。なら、まあいいかしら、もとはと言えば信玄公のアイデアだもの無償の方が喜ばれるわ。

『シンゲンコウ?』


 わたしはゆっくりうなずいた。

「ええ、わたしたちも船を使わせてもらっています。船の安全な航行はわたしたちの願いでもある。もしうまくいった場合には、我々リースマン伯爵家は船代無料でお願いします」

「お母様!?」

『よしこさん!?』

 カーミットさんはきょとんと目を丸くすると、すぐに笑いだしました。

「お安い御用です。永久にリースマン伯爵家の方々の船代は全額免除、特等席をご用意いたしましょう!」

「特等席! それは一等客室とどう違うの?」

「プライベートラウンジと、個室でのお食事を用意させていただきます」

「まあ、ローラン。聞いた? すごいわ。これであなたの王立学院の入学式は船で行けるわよ」


 ローランはすっとわたしから距離を取って、視線を合わせてくれなくなりました。

 

 わたしは空気を変えるように咳払いをしました。

「そういえば、カーミットさん。このあと土木ギルドの方にも伺う予定なの。この話を上手く通せる方を紹介してくださらないかしら? 現場の頑固な職人さんたちを納得させるには、実際に川を管理している皆さんの後押しが必要なのよ」


「それなら私が行きましょう」

 カーミットさん自ら申し出てくれました。これはうれしい誤算です。

「ありがとう存じます。でしたら、クッションを持ってきてくださいな」


 うちの荷馬車はお尻が割れます。

 どうしましょう。またローランが距離を取りましたわ。


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