↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お母さん転生する  作者: 大島Q太
領地子育て編
PR
30/73

06.お母さん、水路航行ギルドに行く

 

 水路航行ギルドは、船着き場近くにある赤レンガの三階建ての建物です。

 支部とはいえ大きな川を管理する場所だけあって、想像していたよりずっと立派です。正面には大きな扉があり、その上には川を描いた紋章が掲げられています。

 一階は倉庫。二階より上が事務所として使っているとあとで聞きました。


 馬車止めに荷馬車をおいて、階段を上ります。ローランは当たり前のように手を貸してくれました。

 ……紳士だわ。

「ニマニマするなら、この手を放すぞ」

「いやっ」

 踊り場でスカートを直してから、大きな木製の扉を開きました。


「ごめんください。アリシア・リースマンです」

 そう名乗ると、ギルド中の視線がこちらに集まりました。


 ギルドの職員さんは、袖に白いラインの入った紺色の上着を着ていたました。どうやら制服のようです。机の配置は銀行みたいに入口に向かって並んでいました。奥に座っている人ほど、偉くなる感じかしら。

 わたしは奥をじっと見て、口元にだけ笑みを浮かべました。


 どうやら当たっていたようで、奥にいた人が立ち上がりこちらに向かってきます。こげ茶色の髪に、細い目。制服の襟にはいくつか、徽章がついているようです。


 変な愛想笑いを浮かべていないのは、好印象だわ。

「よくいらっしゃいました。リースマン伯爵、ご子息。わたしは支部長のカーミット・ベルトマンです」

「アリシアです、こちらは領主補佐のローランです」

 カーミットさんは、ローランにもちゃんと挨拶をしてくれました。


「カーミットさん。余談はいいからすぐに話がしたいの。現状を見せていただけるかしら」

 カーミットさんは、驚いたように細い目を大きくしてうなずきました。

「ええ、分かりました。用意してきます」


 わたしたちは通された応接室のソファに落ち着きます。

 ちらりとローランを見ると、少し頬をこわばらせているみたい、緊張しているようだわ。背中に手を当てると、跳ねるほど驚いて、睨んできました。声を出さずに「落ち着いて」と、伝えると素直にうなずきました。


 ほどなく紙束を抱えたカーミットさんと、数名のギルド職員が入ってきました。

 机の上にはリースマン領の地図が並びます。

 なるほど、こういう形をしているのね。

 横で覗き込んだローランが「……これが、我が領を流れる川の地図か」と小さくつぶやきました。

「ここが、我が家。ここが、この水路航行ギルドの事務所ね」

 と指でその場所を指してみる。ローランはその指先を追うように視線を動かします。

 わたしは地図の下側あたり、大きくS字に曲がりくねっている場所に指を置いた。

「ここが我が領の問題点ね」


 カーミットさんが黙ってそれにうなずきました。

「外側は土砂が溜まるし、内側は堤防を削る構造になっている……であっている?」

『よしこさん、正解よ』

 実はテレビで見たことがあるのよ。私の住んでいた国では水を制する者が藩を制するって感じでね。治水は大昔から川沿いに住む人たちにとって、とても大切なことだったの。

 カーミットさんは、鉛筆でそのS字のカーブの先に線を書き込む。

「今回の築堤工事はここを行うと聞いています」

「あら、それだと。すぐに崩れてしまわない?」

「ええ、そういうものです」

 カーミットさんは、うなずく。

「なるほど、大金を使って堤防を築いても、数年で崩れる。そして、また大金を使って堤防を作る。これを繰り返すからうちは貧乏なのね」

 なるほどね、リースマン伯爵家は歴史のある貴族の家です。こういう大きな工事の費用を負担させるには、都合のいい家なのでしょう。下手に信用のならない家に任せれば、治水は滞り、国内のインフラが止まってしまう……だから。


「お母様!!」

 ローランが声を荒立てた。

「なんです?大きな声で」

「ギルドの皆様の前でなんてことを」

 見回すと、ギルドの皆さんが苦笑いをしていた。

「ごめんなさい。ついもったいないなって思ってしまって」

「ですが、現状この方法が妥当だそうでして……」

 カーミットさんが頭を掻いて、周りのギルド職員を見回しました。皆も合わせてうなずいています。妥当……慣習という杜撰な確認が続いているのね、きっと。


 ああ、うちが小麦粉で割と稼げてしまう家だったから、きっと誰も文句も言わず続けてきたのでしょう。だけど、ここにきてクソクソクソ旦那が、使い込んだから借金になって払えなくなってしまった。

 なんてこと!


「理解しました。助成金は受け取りましたので工事はお願いすると思います。ですが、また同じように壊れる堤防にお金を出すことはできません」

 わたしがそう言い切ると、カーミットさんたちは困ったように顔をしかめた。

「……お母様?」


「川を抑え込むのではなく。いなすことを考えましょう」


 そして、鉛筆を使って地図に線を書き込みます。

 カーミットさんたちは、明らかに鼻で笑いましたね。ローランは不安そうにこちらを見ています。


 どうしましょう。かっこよく言ったつもりだったのだけど、指が震えるわ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。