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お母さん転生する  作者: 大島Q太
領地子育て編
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05.お母さん、始動する


部屋に戻るとゆるゆるのワンピースに着替えます。

ベッドに倒れ込むと、そのままごろんとひっくり返って、天蓋をみつめました。


あら、なんだかアリシアさんが静かだわ。

「アリシアさん?」

『……はい』

やっぱり少し落ち込んだ声です。

「どうしたの?」

『わたしは……ソフィアをちゃんと見ていなかったのね。ソフィアだけじゃない、マーリンも』

声が震えています。彼女は責任感のある女性です、なおさら先ほどの会話を重く受け止めているのでしょう。


「アリシアさん、わたしが気づけたのは経験があったからなのよ」

わたしはごろんと寝返りを打つと目を閉じた。

目の裏に浮かぶのは、莉子の笑顔だった。

「前の人生でわたしは娘との距離を測りかねていたの。そのせいで娘が何をしたいのか、何を思っているのか。結局わからないままだったわ」


娘の莉子は中学の部活動でブラスバンド部を選んだの。任された楽器は希望していたフルートではなく、トロンボーンだった。決まったからには、責任をもってしっかりやりなさいと応援したけれど、口から出るのは不満と愚痴ばかり。

だから、そんなに嫌なら辞めたらどうと言ったの。……彼女はそれからすぐに部活を辞めてしまった。

それから何年も彼女に『お母さんが辞めろと言ったから辞めた』と言われ続けたわ。

命令じゃない「辞める道もある」という提案だったと、ずっと思っていたのだけど。今ならわかるわ。どんなことに悩んで、何を不満に思っていたのかを、ちゃんと話を聞くべきだったのね。莉子自身にどうしたいかを聞くべきだった。

そして、正しいことを言うんじゃなく、大変ねって言いながら寄り添ってあげればよかった。

あれだけ何年も言っていたのは、きっと本当は続けたかったのよ。


ね、よく似ているでしょ。

『ええ』


ソフィアはこれからよ。しっかり関わっていきましょう。それに、子どもはソフィアだけではないわ、ローランもいる。


それに、アリシアさんにはもう一つ育てなければならないものがあるでしょ。

『……え?』

「領よ」

アリシアさんが、ぐっと黙ったかと思うと、フフッと笑った。

『よしこさんって、ブレないわね』

「そこが安定しないと、わたしのぐうたらスローライフ計画が進まないもの。温泉! 温泉!」


それにはまず、築堤工事。そして、作物をみましょう。あとは道の整備もしないといけないし、観光と資源探し。名物を作って……やらなきゃいけないことが多すぎるわ。

『それと、築堤工事のための貯蓄も』

あらやだ、アリシアさんも言えるようになったわね。

「でも、何をするにもまずはお金ってことよね。お金儲けも頑張らなきゃ」

『そうね』

アリシアさんの相槌には実感がこもっていた。


「とにかく頑張る」そう決意して、わたしは眠りにつきました。



朝食の席には、ローランとパロットさんが揃っていました。ソフィアは起きて来られなかったみたいです。一日ですぐに変われるものではないから、ここはマーリンに頑張ってもらいましょう。


「今日は土木ギルドと、水路航行ギルドに行きます」

土木ギルドは、堤防を作るギルド。水路航行ギルドは、交通の要所で船を管理するギルド。言い換えれば、ゼネコンと、鉄道会社のようなもの。


「ねえ、ローラン。一緒に行きませんか?」

ローランは驚いて顔を上げました。

「お母様、わたしは学院に入るべく勉強中です。遊んでいる暇はありません」

「遊びではありませんよ」

「……え?」

「これはあなたの領地の話です」

ローランがきょとんとしました。

「勉強は机があればできますが、領のことは机の上だけでは学べません」

ローランはうつむいて考えた後うなずきます。思ったより素直でした。

「……では、行きます」


「決まりですね。では、朝食を済ませたら出発しましょう」

手を叩いて喜んでみせると、ローランは渋い顔をしてそっぽを見いてしまいました。


スコットさんに荷馬車を借りて、まずは水路航行ギルドに行くことにしました。アリシアさんは荷馬車を操縦できるのね。ちょっと楽しく手綱を握りました。ローランは腕を組んでそっぽを見ています。全身で話しかけるなって言っているようにみえます。警戒心の強い猫のようでかわいい。

『よしこさんて、心が強いわね。ローランすごく嫌そうよ』

アリシアさんは呆れたよな声を出します。

そうね、こういう態度を取られると「嫌われた」と思って悲しくなったわね。特に異性の子どもなんて何を考えてるか分からなかったから。


「あら、川が見えてきたわ。大きな川ね」

「当たり前だろ。国で一番大きな川だ。この国で百五十人乗りの船が通るのもこの川だけだ」

「わたしが昨日乗っていた船ね。確かに大きな船だったわ」

「あの大きさの船は幅だけではなく、深さもいるから川を選ぶんだ」

ローランはそう言って胸を張った。

「人だけじゃない。荷物も、情報もこの川を上ってくる」

あらまあ、ローランってちゃんと年相応の顔ができるのね。

「だからこそ、この川を整える必要がある。そのための水路航行ギルドとの話し合いよ。来てよかったでしょ」

ローランはため息を吐いてうなずきます。

「ああ、でもそのニマニマ笑いは止めてください」


どうしましょう、顔が緩んでいたみたい。


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