02.お母さん、子育てに悩む
この屋敷の構成員はハウスメイドが二人。この二人は村から通いだそうです。そして、迎えに来てくれた庭師のスコットさん。料理人が二人、うち一人は助手という扱いだそうです。そして、家令のグエン。乳母のマーリンです。
そこに新しく、パロットさんが追加されました。
家庭教師などがいる家もあるそうですが、ローランはお金がないせいでもっぱら自習だそうです。
人件費は、必要最低限でした。
ならばどこからと……削れるところなんてないわね。部屋も使えば維持費がかかることから大半が閉鎖されている状態です。
「アリシアさん。あなた節約のプロね」
『必要最低限には絞らせてもらっているわ』
ということは、この家に整理するところはなさそうね。わたしも色々と、節約案を考えてみていたけれど、すでに手は尽くされているようです。
「やはり、収入を増やすしかないみたいね。と言ってもまずは領を見て回らないと何も言えないし」
ここにきて金貨一枚がどれほど重いものなのか、身に沁みます。
それをあのクソクソクソクソ旦那。湯水のように使っていたなんて……!
「とはいえ、アリシアさんがちゃんと、家を守ろうとしていた気概は感じたわ」
『……ありがとう』
って、わたしだって経営については素人ですからね。
扉を叩く音の後、グエンさんが入ってきました。
「奥様、お食事の準備ができました」
「ありがとう、すぐ行くわ」
わたしは急いで旅装を解いて、ワンピースに着替えました。
食堂にはすでにパロットさんと、ローラン、ソフィアが座っていました。パロットさんは食客という扱いなので、座っていて構いませんが、なぜ乳母がソフィアの隣に座っているのかしら。
わたしが席に着くと、食事が始まります。
今日のメニューは川海老のボイルと、サラダ。パンとスープ。
川海老は、わたしたちの船が来る間にスコットさんが獲ってくれた新鮮で仕入れ値ゼロ円です。なんだか、みなさんたくましく経済してらっしゃる。
ふと視線を上げると、マーリンはスプーンですくってスープをソフィアに飲ませていました。
八歳よ?
続いては川海老です。きれいに剥いて、口に持っていってあげています。ですが、いやいやをして食べないようです。そして、パンも一口だけ食べて「もうお腹いっぱい」と顔を背けました。
わたしがじっと見ていたせいか、パロットさんもそちらを見ました。私と同様驚いているようです。
アリシアさん、これが普通だったの?
『ごめんなさい。マーリンが女の子はこういうものだと言っていたので……』
ローランはちゃんと自分でできているじゃない。
『ローランは男の子だし、自分からやりたいと言い出したので……』
まあ、なんてこと。お世話を焼くこと自体は悪いことではないわ。でも、これは世話を焼くというよりかは、過保護に甘やかしているのと同じよ。ソフィアは自分で食べようとすらしていないわ。口を開いて待っているだけじゃない。
「……マーリン」
自分で思ったよりも低い声になってしまった。見守っていた人たちも驚いたように私に視線を集中させる。
「ソフィアは、八歳よ」
「ですが……」
ソフィアはずっと、マーリンを見ていた。
「そう、わたしに「ですが」というのね」
語気を強めるとマーリンがガチャンと、カトラリーを置きました。
「お母様、どうしたのですか。今日は」
ローランが困惑したように声を上げました。
「ローランは素晴らしいわね。きれいに食事ができていて」
「……ありがとうございます」
そして、またマーリンを見つめます。マーリンはわたしの視線から逃げるようにソフィアの方を向きました。それから、ソフィアは、また一口だけパンをかじると食べるのを止めてしまいました。
先ほど部屋で見たお菓子が頭をよぎります。
『あの、よしこさん?』
ごめんなさい。はっきり言い切るわ。これは優しい虐待よ。
『優しい……虐待?』
一見すれば、子どものためを思って世話を焼いているように見えるわ。でも、子どもが自分でやろうとする前に、全部大人が横から手を出してしまうと、そのうち子どもは「自分でやらなくても誰かがやってくれる」と思うようになるの。
自分で考えることも、自分で決めることも、失敗することもできなくなってしまう。
優しくしているつもりかもしれないけれど、同時に少しずつ子どもの自立する力を奪っているのよ。
わたしは手を膝に置いて、マーリンをまっすぐ見つめました。
「できないことを手伝うことはいいことよ。でも、できるかどうかも試させないで手を出すのは、手伝いとは言わないわ。マーリン、あなたはどう思うの?」
『……よしこさん?』
止めないで!
どうしましょう。ことに子どものことになると、直情的になってしまうわ。




