24.お母さん、王都を発つ
帰りの荷支度はあっという間に終わりました。まあ、持ってきたものも少なかったようです。
昨日のアリシアさんとの話し合いで、公爵様の『公妾』の件は、前向きに検討することに決まりました。条件についてはしっかりと手紙でやり取りをします。その方が紙が残りますし。
あとは、ブライアンの処遇くらいで……そちらは、ブライアンが白金貨を使えば捕まえられるとのこと。
ならば、もう王都に滞在する理由はないわ。王都にはトムと、ネリアを置いておきます。トムだけよりも、心強い。
アリシアさんの領地ってどんなところなのかしら。お子様たちに会うのも楽しみ。
今、領はどうなっているの?
『留守の間は、家令のグエンが代行してくれているわ』
トムさんみたいな人が、領地にもいるのね。
そう言えば「奥様。私も同行してもよいでしょうか」と、パロットさんからそう申し出てくださいました。
ですので、引き続き領地の帳簿も見ていただけることになりました。元奥様とのこともあって、少し王都を離れたいそうです。
ええ、ブライアンが払うべき慰謝料をまだ払えておりませんので、パロットさんの言うことは絶対です。
そして、なにかと便利に活躍してくださったロバートさんには、置き土産として、おうどんとその作り方をお渡ししておきました。良いようになさるでしょう。
「また、会いましょう」
とにこやかに挨拶をされましたが、王都へ頻繁に通えるほど財政は潤ってはおりませんので、にっこりと笑うだけにとどめました。
帰りは馬車がまだ入院中で、船で帰ることになりました。
船にも一等客室、二等客室とランクがあるらしく、伯爵家のものが三等客室を使うのは外聞が悪いというので、二等客室です。手痛い出費になりました。
いつか、クルージングで世界旅行なんて、夢を見ていた時期もありましたが……叶わなくていい場面で叶ってしまいましたね。
『よしこさん、でも二等客室なら、朝晩のご飯は食べ放題です』
まあ、なんと。アリシアさん良い情報です。
「パロットさん。元を取れるよう頑張って、ご飯食べましょうね」
決意を口にすると、彼はぱっと口を押えて横を向いてしまいました。
なんだか、思い出すわ。タイタニック……、あの船は沈んじゃうから縁起が悪いけど。
この船は王都から出て、リースマン領を通り、隣の国までを行き来しているようです。国を縦に縦断するので、わが国では立派なインフラでもあるようね。
二等客室ですが、ぜんぜんアリです!
お部屋はベッドと棚のみですが、なんというか寝台列車を思い出させます。
『馬車なら片道五日ですが、船なら船内で一泊するだけで着きます』
少しアリシアさんもウキウキした声を出しています。
「わたし、船の旅って初めてよ」
『ええ、結果的に良かったかもしれないわ。伯爵家の馬車旅はそれなりに過酷だから』
アリシアさんの暗い声が響きます。
どうやら、馬車旅は車中泊でとっても過酷だったそうです。
そうそう、パロットさんですが自費で一等客室に乗られました。
なんというか。いつか一等客室が当たり前になるよう、領の立て直し頑張ります。
『……遠い話ね』
そんな!!アリシアさん? 頑張りましょう。
「でも思ったのだけど、船が泊まる港があるなら、観光もいけるのでは?」
『観光には宿泊施設、商業施設、娯楽施設。そう言ったものを整備する必要があるの。だけど、川の近くは氾濫予想地域だから、お金をかけて建てたところで流される可能性があって、手を出しにくいの。それにリースマンには観光の目玉となるようなものもないし。とにかく田舎で』
「ならば、川から離れた場所に」
『離れた場所は倉庫として使っているわ。水運も立派な産業よ。それにね……何度も言ってしまうけど、先立つものがないの』
ああ、一番大事なものね。はいはい。アリシアさん……頑張りましょう。
『……はい』
なんだか弱々しい返事が返ってきました。
アリシアさん。わたし温泉のこと忘れていないからね。
『あ、はい』
でも、二人でならなんとかなりそうね。
そう言えばちゃんと言えてなかったから、言うけど、わたしを選んでくれてありがとう、アリシアさん。
『……っ』
アリシアさんは黙ってしまいました。
わたしは客室の窓を開けて、窓の外を見てみました。王都からゆっくりと離れていっています。いろいろあったけど、ほんとに若いってだけで素晴らしいわ。
『あの、よしこさん。わたしもよしこさんで良かったって思ってるから』
あら、気を遣わせちゃったかしら、ありがとう。
ああ、どうしましょう。領も楽しみだわ。




