18.お母さん、ドレスを完成させる
公爵様との会食が明日へと迫りました。
そういえば、公爵様ってどんな方なの?
『アレクセイ・シルフォード。現王の年の離れた弟で、歳はわたしの三つ上の、三十二歳。
王立学院を卒業してすぐ、婚約者であるセレン公爵令嬢と結婚して、今はアレクセイ・シルフォード公爵となっています。七年前、セレン様が亡くなってからは、息子さん二人をひとりで育てているとか』
そうなのね。ご苦労なさっている方なのね。でもそれは、公爵様の立場のお話でしょ? 人となりが知りたいわ。野菜が嫌いとか。お優しいとか」
『学生時代しか。交流はなかったし、学年も違うからほとんど話す機会もなかったわ。アレク先輩にはセレン様っていう婚約者もいらしたから、近づくのも畏れ多くて』
それはとっても不思議ね。なんでそんな方がわざわざ会いたいなんて言ってきたのかしら。
『生徒会で学園祭実行委員を一緒にしてたの。その時褒めてもらったことがあるわ』
どうしましょう。なぜ会いたがっているのか手がかりが何もないわ。このままじゃ……また、借金?
『どうしてそうなるの。もうないわ……たぶん』
まあ、頼られても払えるものもないものね。大丈夫よね。
『よしこさん?』
そして、わたしは最後の花の飾りをドレスに付け終わりました。裾の流れを整えて、少し遠くから確認してみます。ちゃんとしたドレスに見えるわ。
「どうしましょう、ほんとにできてしまったわ。ちょっとネリアを呼んで着てみましょう」
そして、ネリアに手伝ってもらって着てみました。レースアップになっている背中の紐を縛ってもらうと、誂えたようにぴったりと体に合いました。鏡の前で横と後ろも確認しましたが、大丈夫そう。
「まあ、奥様。とってもきれいです」
ネリアが鏡越しに目を合わせてにっこりと笑いました。
「では試しに髪も結ってみましょうか」
首元はアリシアさんの首飾り。ゴテゴテ飾るより一点集中って素敵でしょう。髪型はアップスタイルにして幅の広いカチューシャをします。耳飾りはクラックガラスの試供品をちょっと長めに繋いで揺れるようにしてみました。
「ああ、素敵です」
「ほんとに、これなら会食にも胸を張っていけるわ。ネリア、ありがとう」
『よしこさん、すごいわ。ほんとにどうにか準備しちゃった』
皆が褒めてくれるので、うれしくなります。
ちょっと、歩いてみます。あらあら、アリシアさんの体はなんなく、スカートの裾をさばきます。体に染みついた動きというのはすごいわね。
「アリシア様。完成したんですね」
パロットさんと廊下で出くわしました。
「ええ、どうでしょう」
「あのドレスがこんな風に変わるなんてすばらしいですね」
そうすると、客間からなぜかロバートさんが出てきました。なぜ、いるの? そして、商人の目をしていらっしゃるわ。
「そのカチューシャと、耳飾りを見せていただいても?」
「お見せするほどのものでもありませんわ」
ほほほっと、笑っておきます。公爵様と会ったら、問答無用で領に帰ろうと思っているの。面倒ごとは増やさないようにしないと。
「そのカチューシャについている花の飾りは何ですか?立体的でとても可愛らしい。それにクラックガラスに混じって鈍く光るその玉は……糸を巻いている? 初めて見ましたが、とても素敵な工夫だと思ったので」
ほんとにこの人は……つまみ細工と、巻き玉に気付かれたみたい。布と糸が余ったので作ってみたのだけれど。
「リースマン伯爵……」
あら……改まって。
「その花と、玉。同じものを作っていただくことはできますか?」
どうしましょう。
「……誰でも作れるようにはしたくないわ」
「なるほど、契約書を用意します」
ロバートさんはまたあの目の奥が笑ってない笑顔を浮かべました。チャリンッという貨幣の鳴る音がするあの笑顔です。
「……奥様。素晴らしいドレスですね。お似合いですよ。精霊かと思いました」
「……精霊?」
「スキルや、自然、命を司る者たちです」
『精霊はこの世界では珍しいものではないわ。姿を見ることは少ないけれど。いつもそばにいる。とてもきれいなものと言われているの』
なるほど、八百万の神様みたいなものなのかしら。
こほんっと、アリシアさんが咳ばらいをしました。
『この世界の男性は、きれいな人を精霊に喩えて褒めるんです』
アリシアさんが照れながら説明してくれました。
「ありがとうございます」
わたしはにっこりと笑って自室に戻りました。
ほんとに褒められたのよね。年甲斐もなく精霊みたいにはしゃいでるぜあいつ!って、ことではないわよね。
『……全然違います』
どうしましょう。どうやらちゃんと褒められてしまったわ。




