17.お母さん、着々と準備する
挨拶をして、部屋を出ました。
そのまま、ドレスを抱えて、自室……扱いにしている部屋に戻ります。
「さて、やりましょうか……」
ああ、貧乏性の性が……と葛藤しながら袖を取り外しました。
「ネリア、この袖の型を紙に写しとって」
ドレスの開閉は背中のボタンで行うのですが、さすがに古いせいか欠けていたりします。それにスカートの裾もほつれそう。
一度ドレスを着てみることにした。
「あら……胸が……くるしいわ」
ボタンが上まで留められないことがわかりました。背中はボタンから編み上げタイプに変えなきゃね。
「ふむふむ」
鏡で横と、後ろを確認します。薄い黄色はそのままだと可愛いけれど、襟ぐりや裾に薄い緑を足すと落ち着いた雰囲気になりそうね、手間はかかるけど。
そうだわ。まずイラストに描いてみたらイメージが伝わりやすいかもね。
「ネリア、紙と何か書くものを」
そして、頭に浮かんだ改造ドレスのイラストを描いてみた。
「まあ、奥様のやりたいことがわかりました」
そして、二人で手分けしてあとはひたすらチクチク縫いました。すごい、目がかすまない! 手が痛くならない! ちょっと同じ姿勢が続くと、肩は凝るけど。立って体操すればすぐに回復する若い体。
扉を叩いて、トムが入ってきました。
「奥様、パロットさんと、ロバート様の話し合いが終わりましたので、確認してください」
「分かったわ」
できたところまで確認してみる。あら、ほんとにいい感じ。でも……ドレスがこれだけシンプルだとやはり宝飾品が必要なのかしら。
『そうね。クラックガラスはきれいだったけれど……沢山は買えないものね』
「ああ!またお金だわ!」
わたしはつい声に出して、叫んでしまいました。ネリアとトムが驚いた顔をしています。
「いえ、スカーレットと見習わなきゃ。アイデアと工夫で……何とかしましょう。どうせ、会食なんて一日だもの。その一瞬だけ整っていればいいのよ」
わたしはトムの後をついて、ロバートさんたちが待つ部屋に戻りました。
「お待たせしました」
机の上に書類が綺麗に並んでいます。書類についてはロバートさんが説明してくださり、数字についてはパロットさんが説明してくれました。
「ありがとうございます」
わたしは書類の細かな字までチェックして……気を付けないととんでもない但し書きがあったりするのよね。そこらへんもじっくり読んでサインしました。
「では、試作品ができましたら、納品いたします」
それよ! 試作品!
「ぜひ、早めにできれば、すぐに……今すぐに!」
『よしこさん?』
アリシアさんの戸惑った声が聞こえた。
ロバートさんと、パロットさんも私の剣幕に驚いたようです。
「だって、とってもきれいなドレスに仕上がりそうなの。ただ、宝飾品が少し足りなくなりそうなのよ」
慌てて弁解すると、男性二人は目を合わせて、こちらを見ました。
『よしこさん。その言い方だと、宝飾品を贈ってくれって言ってるようなものよ』
まあ、なんてこと。
「お二人が考えているようなことじゃなくて。えっと」
お二人とも、明らかにほっとされました。
「もちろん、プレゼントをするのは嫌ではないのですが、その……既婚女性に贈るのはいろいろと問題が……」
ロバートさんが珍しく言葉を濁しています。
「ああ、そうよ。既婚女性で思い出したわ。パロットさん、あなたの元奥様に伯爵家名義で贈った品を回収したいの」
「……え?」
『よしこさん? 今それを言ってしまうの?』
アリシアさんが慌てた声を出しています。
「だって、伯爵家のお金で買ったなら伯爵家の資産でしょ」
「それは何というか……無理では……?」
ロバートさんが困ったように呟き、パロットさんを見つめました。
「あ、いえ。ちょっと待ってください」
パロットさんは、顎に手を当てて考えています。そして、ぱっと明るい顔をされました。
「確かに……既婚女性に堂々と贈答品は買えません。結果、ブライアン様は書類上リースマン伯爵宛に買ったことにしておりますので……できますね」
「ならば、回収は……?」
「……できます。執行しましょう!」
なぜか、パロットさんはすごく悪い顔をしていましたが、見ないふりをしました。
どうしましょう、でも今日明日の話にはならなそうね。




