16.お母さん、流行を調べる
翌日、からりと晴れたいい天気。
朝ご飯を食べ終えて、ルンルンと染めたドレスを見に行きました。
「まあ、良い色じゃない」
ちょっと、むらはあるけれど、気にならない程度です。きれいな薄い黄色に仕上がりました。これなら黄ばんでいるというより、黄色いドレスに見えるわ。ね、アリシアさん成功じゃない?
『ええ、ほんと不思議。でも、ちょっと型が古いわ』
「まあ、わがまま」
でもそうね、伯爵夫人が見るからに古いドレスを着ていくのも、かっこよくないわね。
「ネリア、ドレスショップに行くわよ!」
「はい!奥様」
邸の中から大きな返事が聞こえてきました。
さっそく、昨日刺しゅう糸を買ったお店に入ります。ええ、わたしたちは立派なお客様です。
「ちょっと、お店の方。今はどういうドレスが流行っているの?」
『……よしこさん?』
店の方はあからさまに顔をしかめました。そして、ポイっと店の外に出されてしまいました。
『それはそうでしょう! どんなドレスが流行っているかなんて教えてくれる訳ないわ。彼女たちはそれで商売しているんだもの』
ごめんなさい。それもそうよね。この株は上がるよーなんて言ってくるのはほぼ詐欺だもの。本当に上がるなら人に教えるはずないものね。
『その例えは分からないけど』
ならば……そうね。高級なレストランか、ホテルの前で、入っていく女性を見たらいいと思わない? 量販店の着こなしは、量販店で実際に見ればいいのと一緒よ。
『よしこさん?』
「ネリア、今度は人間観察よ」
そして、わたしたちは高級店が並ぶ通りへと移動しました。
みなさん、馬車からすぐにお店に入ってしまうから一瞬ですけど、なんとか分かってきた気がします。
「あの妊婦さんみたいなドレスが流行っているのね」
「奥様、エンパイアドレスです」
「そう呼ぶのね……でもなんとかなりそう。帯みたいな幅の布を巻けば、似た形になりそうよ」
「おび? ベルトのようなものですか?」
「そうそう、幅の広い布でできていて、こう背中のとこできゅっとリボンみたいに結ぶの」
「……いいですね。大きなリボン」
ネリアはポンっと手を叩いてうなずいている。
「あとは袖は付け替えた方がよさそうよ。透ける素材でふわりとする感じで」
「袖を足すくらいの布なら買えそうですね。奥様」
ネリアは無邪気に言っています。
ドレス一着分の布は買えなくても、足す分くらいなら出せるそう。
『なんだか。ごめんなさい』
アリシアさんのしょんぼりした声が聞こえました。
ぜんぜん、とっても楽しいわ。
作戦も決まって、またあの追い出されたドレスショップに戻りました。
そこで張りのある薄緑色の布と、黄色いシフォンの布を買いました。お客様ですよ。
そして、ちょっとだけ縫っているところを覗きました。こちらの世界は手縫いなのね。ミシンがあったら便利だったのだけど。
そうして、ほくほくと屋敷に戻ると、またロバートさんが待っていました。
「こんにちは」
「リースマン伯爵。こんにちは」
せっかくなので、家の中に招きました。……中は立派です。
古めかしい立派な応接セットのある応接間に通しました。
「早速ですが、昨日のガラス工房の契約についてです」
てっきり、ロバートさんは暇なのかと思ったら、ちゃんとお仕事でした。
『よしこさん?』
「なら、数字はパロットさんに任せているの。ネリア、呼んできてくださいな」
「はい、奥様」
わたしはネリアが用意してくれた紅茶を注いでロバートさんに出しました。カップもソーサーも年代物。いわばアンティークです。新しいものは買えないので。
『よしこさんっ』
「それで、昨日のドレスはどうなりました?」
ロバートさんは一口紅茶を飲んで、何やらカップをのぞきました。
「あー、はい。先ほど市場調査に参りましたの。それで方向性も決まりました」
わたしも紅茶を一口……渋いわ。
「方向性ですか? 差し支えなければどのように?」
まあ、ロバートさんに見ていただければ、良いか悪いか判断できるわ。なんて、素敵なお申し出でしょう。
「ちょっと待って、いただける?」
わたしはいそいそとドレスを取りに行きました。
「じゃーん」
「じゃーん?」
なぜか、ロバートさんがわたしの言葉を復唱しました。
「黄色く染めたドレスを、エンパイアにしようと思います。そこでこのウエストの部分から胸の下までをですね。この薄緑色の布で巻いて背中に大きなリボンを付けようかと」
わたしは説明しながら、玲奈ちゃんに浴衣を着せた時みたいに、ドレスに布を巻いていきます。兵児帯みたいだわ。
「そして、この袖は取り外して、この透ける布で袖を作り直そうかと思っております」
そう言いながら肩から、シフォンをかけてピンで留めてみました。
正面にまわりこんで、見てみます。悪くないわ。
「たしかに、今風になりましたね。幅の広い布を使うのは新しい気がしますが」
やりました! ロバートさんから今風というお言葉をいただきました。この方向性間違ってなかったみたい。
「あの奥様……そろそろ、パロットさんと変わっていただけると」
ネリアたちが来ていることにも気付かず、夢中になっていました。
どうしましょう、わたしったら年甲斐もなくはしゃいでしまいました。




