13.お母さん、ガラス工房に行く
ネリアと一緒に屋敷内の各部屋を見て回っていきました。
「ああ、どうしてかしら。どこの部屋のカーテンも同じ色だわ」
「ええ、その方が外から見た時に統一感が出ますからね」
ネリアに正しいことを言われて、がっくりとうなだれます。
スカーレットのように、カーテンでドレスを作ろうと意気込んだものの。どこの部屋も、かかっているカーテンは深い紺色でした。もちろん、上品で素敵だけれど……アリシアさんはブルべなの。だからもうちょっと、淡い色が似合うのよ!
『よしこさん、ぶるべとはなんですの?』
えっと、肌の色や髪の色を見て、その人に一番似合う色を決めるのがパーソナルカラーで。それには四つのタイプがあって……って。わたしもそんなに詳しくはないんだけど。色白で血管が青く見えたらブルべだって、愛子さんが教えてくれたの。愛子さんがブルべでね。
それで、アリシアさんにはこういう濃い紺色よりも、鮮やかな青や、薄い青の方が似合うのよ。……せっかくだから、似合う色で素敵なドレスを仕立てたかったけど作戦の立て直しが必要ね。
「よし、先に買い物に行きましょう。ネリア……行くわよ」
「はい!奥様」
以前と同じ灰色のワンピースとボンネットで変装をして、市場に行きました。今日も人が多くてにぎやかな街です。
「奥様、こちらが色ガラスのあるランプ屋です」
ネリアが連れてきてくれたのは、街の中心より少し貴族街寄りの小さなお店だった。ところ狭しと並ぶガラスのランプはどれも可愛くて、……そしてどれも高級。
そっと裏返っている値札を見て、元に戻しました。どうやら、赤いガラスの方がお高いわね。でもわたしが欲しいのは、アリシアさんの目と同じ緑色のガラスです。
「ちょっとそこのお店の方。ガラスの破片でいいので分けていただけない?」
って言った瞬間、猫の子をつまんで放り出すみたいに、締め出されてしまいました。
なんてこと!
『それはそうよ。ケーキ屋さんでいちごケーキのいちごだけ売ってなんて言わないでしょう』
アリシアさんの例えが秀逸すぎてぐうの音も出ないわ。
ならば、いちご農家を探せばいいのね。
わたしは二度目の商業ギルドにお邪魔しました。いちごと言えば、農協。農協と言えば、商業ギルドだわ。
ちょっと待つと、ロバートさんが出てきました。そして無事、ガラス工房を紹介していただきました。
少し街はずれの工房でしが、面白がったロバートさんがついてきて、おかげで馬車を出していただくことができました。工房内では職人さんたちが高炉の前でガラスを溶かしたり伸ばしたりしていらっしゃいます。
「それでリースマン伯爵。ガラスで何をしようと?」
「耳飾りを作りたいと思いまして……」
壁には見本のガラスが飾られていました。
ああ、素敵。キラキラしたガラスがたくさんあるわ。色とりどりね、ガラスって確か鉱物や金属を、透明なガラスに混ぜて色を付けるのよね。この世界のガラスも発達しているみたい。
「それは偽物の宝飾品ということですか?」
ロバートさんがそう言って首をかしげる。
「まあなんてこと、偽物だなんて」
わたしはロバートさんを無視して、さっさと工房の職人さんに声を掛けさせてもらった。
身に着けて可愛ければ、ガラスだろうとプラスチックだろうと本物よ。
「すみません、こちら見せていただいても?」
手に取ったのはきれいな緑のガラスだった。
「これを丸く作ることはできる?」
職人さんはわたしではなくロバートさんの方に目をやりました。どうやら、ロバートさんがうなずいたようで、渡したガラスを丸くしてくださるようです。
「できれば小さく……指先ほどの大きさの丸で」
職人さんはお願いした通りに小さな丸いガラス球を作ってくださいました。言ってすぐ作ることができるなんてすごく優秀なのね。これもスキルか何かしら?
ああでも、これだと何の変哲もない球ね……もちろんこれでもきれいだけれど。そうだわ。玲奈ちゃんとビー玉で作ったあれだともっと素敵になるかもしれない。
「ここにフライパンと、氷水はあるかしら?」
職人さんはぎゅっとわたしを睨みました。わたしも負けじと睨み返します。
「……出して差し上げて」
ロバートさんが間に入って、言ってくださったので出てきました。
「こうやってね。フライパンでガラスを炒って……」
ええ、じっくり炒るので時間がかかります。職人さんはジトリとわたしを睨みました。
「ごめんなさいね。仕事の手を止めさせて」
そして、炒ったガラス球を氷水に漬けます。じゅっと、パチッという音が響き白い水蒸気がふわりと立ち上がりました。少し時間をおいて水の中からそっと取り出します。
「クラックガラスです」
職人さんはわたしの手から、ガラスを拾い上げて光にかざします。小さなひびに光が乱反射してとてもきれい。
「これは……」
「とてもきれいでしょう」
ロバートさんも手に取り光にかざしている。
「これが……偽物でして?」
少し得意げに言ってしまったけれど、ロバートさん構わずにっこりと笑いました。
でも、何というか。何か悪だくみをしているような顔です。
「……ご婦人」
職人さんが、巻いていたタオルを外してわたしに頭を下げて来ました。
「これを私の作品に……」
ええっと? ロバートさんを振り返るとにっこりとうなずいていました。どうやら、職人さんは今の技法を気に入ってくれて、買ってくれるということだと説明してくれました。
「材料費を差し引いた売り上げの二割でどうでしょう」
「そうね、お金の計算はうちの会計士に、契約の話は……ロバートさんにお願いするわ。わたしは耳飾りが作りたいの」
職人さんとロバートさんが仲良く目を合わせています。
とにもかくにも出来上がったクラックガラスには大満足でした。
大満足した帰り道、さらに素敵なものを見つけました。
どうしましょう。着々と思い通りのものが手に入っているわ。




