11.お母さん、商業ギルドへ行く
パロットさんは本当に優秀な方でした。
まず王都中にリースマン伯爵家の名前でつけ払いができないようにしました。
「いくら王都でも、白金貨が使える場所は限られています」
と、パロットさん。つけ払いができなければ、現金で払うしかない。そして、いつか白金貨を使うしかなくなるだろうと。
「ブライアン様が支払いに白金貨を使ったら、連絡をもらえるように罠を張りましょう」
罠……、素敵。
『行方を探すより、使えなくする方が簡単ですものね』
アリシアさんが感心したように言いました。
「それで?」
「商業ギルドに行きましょう。そこで協力を仰ぐのです」
はあ、商業ギルド! 総合商社? 仕事の内容的には農協の方が近いのかしら。
『主に取引。契約。預貯金。商売の管理。店同士の仲裁。などが商業ギルドの仕事よ』
なら、農協ね。
ということで、王都の一等地に立つ商業ギルドに向かいました。
さすがといいますか。通された応接室は、高価なものの見本市のようにきらびやかなものが並んでいます。足元のじゅうたんもふかふかで……お金があればぜひとも購入したいわ。
そういえば、リースマン伯爵領は農業が盛んだと言っていたけど、具体的には?
『小麦が一番ね、何より王都まで川一本で運べるからそこが利点ね』
借金まみれだけれど、土地は豊かなのね。
『川の氾濫がたびたびあって。そのおかげで土壌が肥沃になるの。でも堤防はすぐ流されるから補強工事が必要なの』
つまり、ブライアンが盗んだ白金貨2枚はリースマン領の未来なわけね。
『……そう言えるわね』
待っていると、扉から仕立ての良いスーツを着た男性が入ってきた。薄茶色の髪に、青い目、おひげもきれいに整られていて四十代くらいかしら。背は低くもなく、高くもなく。口角を上げてほほ笑んでいる……あらやだ。目は笑ってないわ。まあ、日本にもいたわこんな人、どこの偉い人も似た感じになるのね。
わたしも合わせて、微笑んで見せました。
「こんにちは、私は商業ギルドの副ギルド長 ロバートと申します」
「こんにちは。わたしは、アリシア・リースマンです」
どうぞと言われたので、ソファに座ります。いいクッションだわ。
この人は雑談が必要な方かしら、それとも単刀直入の方が、と探っているとロバートさんが微笑みました。
「話はすでに伺っております。リースマン領のつけ払い禁止と、白金貨の行方を探されているとか」
パロットさん動きが早いわ。
「そう、話が早くて助かりますわ」
「リースマン領はそんなに困窮されているのですか?」
あらあら、話は早いけれど抜け目はないみたいね。下手に答えれば、王都に流れるリースマン産の小麦の量を減らされかねないわ。
ここはごまかす一択ね。
「商業ギルドの副ギルド長がそんな悪い冗談を真に受けたのですか?」
「……冗談ですか?」
ロバートさんは心外だという風に、大げさに驚いてみせます。まあ、狸だわ。
「ええ。ご存じでしょう? うちから王都へ出している小麦の量を。今年は築堤工事も予定しておりまして、今まで以上に良質な小麦をたくさん王都へ出せると思いますわ」
ロバートさんはゆっくりと二度うなずくと、ソファにもたれた。これはゆっくりしゃべりたいという合図かしらね。なんだかこういう交渉って、娘の学園祭でスポンサーを募っていた頃みたいね。どうして、権力者のおじさんって皆同じような雰囲気を出すのかしら。
わたしも迎え撃つべく少し深くソファに座り直した。
「すみません。てっきり借金の相談も兼ねて来られたのかと身構えた次第です」
あらまあ。商業ギルドも貸し付けをしているのね。でも、転生してから借金ばかりだわ。もう遠慮したい。
「心配には及びませんわ。リースマン家は、確かにお金に困っておりますが……それは無くて困っているのではなく、逃げ回っているから困っているのですわ」
だから、早く白金貨の行方を見つけたいのよ。
「……お金が逃げ回っている」
ロバートは、一瞬きょとんとした後、大きな声で笑い出してしまった。
「なるほど、理解しました。協力いたしましょう」
少し雰囲気が和んで、ほっと胸をなでおろした。
『よしこさん……』
アリシアさんがどんな風に私を見ているか分かる声だわ。
「ですが、先日治療費を分割払いにされたとか」
ああ、まだこちらの情報を持っていると、見せてくるのね。
まあ、耳が早い。でもそうね、調べればすぐわかることだわ。ロバートさんたち商業ギルドの人たちは優秀なのね。
「ええ、伯爵家だからと二日で金貨二枚と吹っ掛けられたものですから、飲み込む時間をもらったのよ」
「ほぉ。確かに。伯爵家であれば、その半分のはずですからね」
わあ、ほんとに吹っ掛けられているわ。どうしましょう。
『よしこさん、払うと決めた以上は払う必要があるわ。それが貴族よ』
ええ、分かっているわ。払うと決めた以上は理不尽でも払う。それが信用というものでしょう。ママ友のお茶会と同じよ。誘われて行ったランチに五千円?と後出し請求されても食いしばって出す。
ただし、こちらも学ぶのよ。
「それで? 白金貨を捕まえて築堤工事が完了した後は、どのように考えておいでですか?」
温泉ね。温泉。スローライフを目指しているわ。
『たぶん、そう言うことを聞いているのではないと思うわ』
分かっているわよ、協力するんだから、その分ギルド側にうま味はあるのかって聞いてきているのよね。
「近々、小麦粉を使った名物を作ろうと思っておりますの」
きりっとした顔をして見せた。
「ええ。これから小麦の出荷量が上がるのだもの。ならなおさら加工に力を入れていかないと」
ロバートさんは膝に肘をついて、グイっと身を乗り出してきた。
「……加工ですか」
あら食いついちゃったわ。なんだか深い案があるように受け取られたようね。
「ええですが、すべてをお話しするにはわたしたち、まだそんなに仲良くないでしょう」
『よしこさん?』
こういう時は、はったりを言ったもん勝ちなのよ。
『……よしこさん??』
「ですから、今後ゆっくり仲を深めていきましょう。次からもリースマン領の窓口は、ロバートさんにお願いしたいわ」
はい、ここでスマイルゼロ円。笑っときましょう。
ロバートさんは、姿勢を戻して笑った。むこうも、スマイルゼロ円だわ。
「ほほほほほほ」
「ふふふふふふ」
ということで、この会は散会となりました。
『ところでよしこさん。名物って何をつくるの?』
どうしましょう。何も考えてないわ。




