10.お母さん、犯罪を見つける
長い一日を終えて、ベッドに横たわりました。
トイレとバスタブがちゃんとあってよかった。これだけは神に感謝ね。
アリシアさーん。温泉はどこー! かわいい子どもたちはどこー!
どうして、動くたびに借金が増えるのー!
会計士を雇ったことで、帳簿の目処はついたけれど、慰謝料という名の新たな借金!
『よしこさん、お疲れ様。一つずつ答えるわね。温泉はリースマン領の南部にあるわ。子どもたちは領の領主邸でお留守番中。動くたびに借金が増えているのは、ブライアンのせいよ』
ですよね。冷静に返さないで、文句が言いたかっただけだから。
それよりも歩く借金製造マシーンのブライアンをどうするの? 離婚……しちゃう?
『貴族の離婚は難しいわ。現状、彼は入り婿としての義務である子どもは作っているし、仕事も真面目でないだけでしているもの。離婚理由がないわ』
えー。浮気は?
『本来ならアウトだけれど、子どもを作ってないから……まだ問題にはならないわね』
借金は作ってるわよ。
『そこはわたしの稼ぎが悪いってことになるわ』
辛い。貴族社会はひどい。せちがらーい。
一度、王都にいるあいだにクソ旦那と対面しないとだめね。会って殴らないでいる自信がないわ。
『殴る時は人がいない場所で、服で隠れる場所をお願いね』
それじゃ、ビンタできないじゃない。
『貴族ですもの』
そう言えば、お手紙をいただいていた王弟殿下とお会いした方が良いのかしら?
『殿下ではないわ。今は臣下に下られて公爵ですから』
「そうなの、呼び方もあるのね」
『どうしましょう……今の私を見たらきっとがっかりされるわ』
アリシアさんの声が落ち込んだように聞こえました。
「ずっと、領のために頑張ってきたアリシアさんを見て、がっかりするような人なら、こっちから願い下げよ」
『ありがとう、よしこさん。これは私のわがままよ。昔のままの私を覚えていて欲しいなって思ってしまって』
まあそれって、会いたいってことじゃないの。
決めたわ。ブライアンと、アレクセイさまに会ってから領に帰りましょう。
『そうね、それが一番良いのかもしれない』
じゃあ、方針は決まったし。また明日から頑張りましょうね。
『ええ、よしこさん。おやすみ』
おやすみなさい。
* * * *
「おはようございます。パロットさん」
「おはようございます。奥様」
しっかり書面を交わしてパロットさんを会計士として雇うことができました。賃金は月末払いで良いそうです。
彼を執務机に案内して、請求書やその他、トムについてもらい必要な書類を整理しました。わたしはネリアと返事が必要なその他いろいろな書類を処理します。不思議と、アリシアさんの記憶が混じってくれているおかげか、返事の仕方や、考え方は自然と浮かびました。これも彼女が今まで頑張ってくれていたおかげです。
ありがとう、アリシアさん。
「あの……奥様」
「はい」
パロットさんに見るように促された書類を見て、愕然とする。
「そんな、助成金は支給済みですって?」
「ええ、確かに受け取りのサインの控えがあります」
「……いつ?」
パロットさんは、帳簿を捲って指をさす。
「先月ですね。金額は白金貨二枚」
『よしこさんの世界で言う二千万円ほどの価値よ』
二……二千万!田舎で家が買えるじゃない。
サインと、帳簿を確認しました。間違いない、受け取ったのはブライアンだわ。
「でも金庫の中にはお金がなかったわ」
『あのお金がないと、築堤工事ができないわ。せっかくお金を集めてやっと取り掛かれるところまで準備したのに』
アリシアの声が悲壮感に染まった。
「……パロットさん。このお金がどこにいったか。調べられるものかしら」
「ええ、大きなお金ですから、できると思います」
「取り返さないと、リースマン領の水害対策が……」
パロットさんは、顎に手を当てて考え込んでいる。
「こういうのはどうでしょう。これは伯爵領のお金ではなく。国からの依頼で領地の整地のために出たお金です」
パロットさんは思案するように言った。
『そうね、なるほどだわ。本当に彼は頭がいいわ』
え?
『よしこさん。パロットさんが言いたいのは……』
パロットさんが私をまっすぐ向いてうなずいた。私も理解した顔でうなずいてみせる。
「つまり目的外でこのお金を使えば……」
はい、使えば?
「これは、横領だ」
『これは、横領よ』
ひい、刑事事件? クソ旦那は、浮気夫から借金製造マシーンに、そして、犯罪者にジョブチェンジってこと?
どうしましょう。身内から犯罪者が出てしまうわ。




