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鬼の炎帝、妖の異界を統べる  作者: 星河
カエデ王国編
102/103

月の間へ

 リナに異形の男を任せ、俺たちは戦線を離脱し、祭壇へと回り込む。


「大丈夫なの? お兄ちゃん」


 茜が不安げに見上げてくる。

 その声はわずかに震えていた。


「その……リナさんとレビアさんを置いてきて……」


 “削除”。存在ごと消し飛ばす理不尽な権能。

 それを相手に二人を残す――常識的に見れば無謀だ。


「大丈夫だ、あの二人は死なない」


 即答だった。


「本当?」

「あぁ……」


 言い切りながらも、胸の奥にわずかなざらつきが残る。

 だからこそ――急ぐ必要がある。


(ここで手間取るわけにはいかない)


「確か、この先だよね」

「はい、反応はこの奥です」


 気配を殺し、森の最深部へと足を踏み入れる。


――――黄昏乖離の祭壇――――


 視界が開けた瞬間、それは現れた。


 太陽の上に月が重なった、歪なオブジェ。

 その前には、人一人がすっぽり収まるほどの巨大な石製の器。


 朽ちた石畳。

 その両脇には、赤い結晶の太陽と、黄色い結晶の月が対を成している。


「祭壇の奥に……もう一つ祭壇……!?」

「なるほど……先程のは“外殻”ですね。ここが本体」


 ナミダの分析は即座だった。


「結界みたいなものか?」

「えぇ、侵入者を選別する“門”の役割でしょう」


 つまり――ここから先は本領域。


 空を見上げる。

 満月と太陽が、同時に浮かんでいる。


 条件は、揃っていた。


 俺たちは事前に決めていた通り、二手に分かれる。


「ここで待機でいいんだよね?」

「そのはずですが――」


 ナミダが言いかけた、その時だった。


 ギィィ……と軋む音。


 太陽と月のオブジェが、ひとりでに動き出す。


「オブジェが……!?」

「強い反応……特妖クラス以上!」


 結晶が脈打つ。

 内部から滲み出すように、禍々しい笑みが浮かび上がる。


 ――ゲヒャヒャヒャヒャ


 どこからともなく響く嘲笑。


 次の瞬間。


 空間が捻じ曲がり、黒赤と黄色の渦が出現した。


 ――ワープホール。


「開きましたね」

「この先に……いる」


 月神と日神。


 俺は全員を見渡す。


「もう一度確認する」


 空気が引き締まる。


「今回の目的は“調査”だ。無駄な戦闘は避けろ」


 ここで暴れれば、国家規模の敵対を招く可能性がある。


 だが――。


「襲われた場合は別だ。最悪、殺すつもりで対処していい」


 沈黙のあと、頷きが返る。


「分かったよ!」

「今度こそは守るのにゃ!」

「ご武運を……」


 レイラ、ミレ、ナミダが順に渦へと踏み込んでいく。


 空間が波打ち、彼女たちの姿が消える。


「宝、お互い無事で再開するよ」

「当然だ。死ぬつもりはない」


 麗華が楔を打ち込む。


 ガン、と硬質な音。


 歪んだ空間が一瞬収縮するが、楔がそれを固定する。


(これで帰り道は確保できた)


「じゃあね!」


 麗華も渦の中へ。


 残るは俺と茜。


「行くぞ」

「うん!」


 楔を打ち込み、渦へと踏み込む。


 ――瞬間。


 世界が、歪んだ。


 上下左右の感覚が消える。

 視界は濁った黄色に塗り潰され、空間そのものが流動している。


「これが……異次元の通路……?」


 茜がきょろきょろと周囲を見渡す。


「初めて通るのか?」

「うん。前に別の世界に行った時は、乗り物だったから」


 足元は確かに“地面”なのに、踏みしめる感触が曖昧だ。

 現実と非現実の境界が曖昧になっている。


「でも……ちょっと楽しいかも」


 茜が笑う。


 無理をしている笑顔だと分かる。


「あぁ、もうすぐ出口だ」


 前方に、白い光が見えてきた。


 この歪んだ通路の終点。


「準備はいいか?」

「もちろん!」


 頷きを確認し、俺は一気に加速する。


 光へ飛び込む。


 ――キィン。


 耳鳴り。


 全てが白に染まる。


 視界が焼き付くような閃光の中で、感覚が一瞬途切れ――


 やがて、ゆっくりと輪郭が戻る。


 瞼を開く。


 そこに広がっていたのは――


「ここが……月神の世界か」


 夜空。


 ヒノキでは決して見られない、完全な“夜”。


 そして、どこまでも続く砂利の大地。


 風がない。音がない。


 ただ、静寂だけが支配する異質な世界。


 ――戦いの舞台は、もう始まっている。

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