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鬼の炎帝、妖の異界を統べる  作者: 星河
カエデ王国編
101/103

構築式

 俺たちが戦闘の隙間を縫い、祭壇へと駆け抜けていた――その裏で。


 リナとレビアは、一体の異形と対峙していた。


「神への贄を拒絶するならば……死して魂を捧げるのです」


《【特妖】削僧(さくそう)


 白装束、三つ目、そして“削除”の妖術。

 存在そのものを書き換える、規格外の権能を持つ怪物。


「もちろん、算段はあるのだな? リナよ」

「えぇ――勝ち筋は、既に確定しています」


 短いやり取り。だがその裏で、リナの思考は既に数千、数万の分岐を走査していた。


(発動条件は額の第三眼による“視認”。回避は困難、耐性は無意味――ならば“到達させない”か、“帰還させる”かの二択)


 結論は出ている。


 直後、削僧の額の眼が開いた。


「さぁ……贄となるのです」


[『削除妖術』抹消(デリート)


 視線が走る。


 その軌道上にある全てが――消えた。


 木々が崩れる暇すらなく、岩が砕ける音すらなく。

 数キロ先までの景色が、世界から“抜け落ちる”。


 空間が、穴のように欠けた。


(直撃すれば終わり……接触の概念すら成立しない即時削除)


 だが。


[『水龍妖術』水龍翼(ウォーターウィング)


 レビアの背に、水が噴き上がる。

 それは一瞬で翼へと形を変え――天を裂く。


「さぁ、行くぞ!」


 轟音。衝撃波。

 大地を抉りながら、レビアは空へ跳ね上がる。


「まずは貴女からです」


 削僧の首が異様な軌道で回転し、空を捉える。


 ――来る。


 視線が、空を“削りながら”迫る。

 雲が消え、空気が消え、空の輪郭すら削げ落ちていく。


(光速以上……だが直線軌道、予測は可能!)


 レビアは翼を翻し、軌道を外す。

 純粋な機動で“追尾”を振り切る。


 同時に。


 リナは森を駆けていた。


(本体は動かない。だが視線の自由度は高い……加えて)


「不届きな者よ……死に体となりなさい」


 削僧の左目が――爆ぜた。


 その瞬間、空中に“眼”が生まれる。


[『削除妖術』円式削除の眼(デリートサークル)


 自律型。全方位監視。

 死角を消し飛ばす、第二の砲台。


 瞳孔が光る。


「来ると分かっています」


[『構築妖術』支配の式(マスターキー)


 リナが展開した構式へ、削除の光が侵入する。


 本来なら――ここで終わり。

 術式ごと“消される”。


 だが。


[『構成妖術』再構成(リサイクル)


 光が――曲がる。


 あり得ない角度で屈折し、空を裂いて逸れていく。


 森が削れ、地面が消える。だが――リナには一切届かない。


 削僧の顔に、初めて“疑問”が浮かぶ。


(何が起きた……?)


 リナは止まらない。


「単純な話よ。あなたの“削除”は光学的な視線に依存している」


 指先で構式を弾く。


「なら、その経路を書き換えればいい」


 空気が震える。


 酸素、窒素、微粒子。

 その場に存在する元素を再配列し――透明な多層ガラスへと変質。


 屈折率を段階的に変化させ、光路を強制的に湾曲させる。


「視認しているつもりでも、実際に届く光は“別方向”」


 結果。


 削除は“当たらない”。


(視線そのものを騙した……だと?)


 削僧の思考が、ようやく加速する。


「動いたわね、頭脳が」


 その瞬間。


 ――雷鳴。


「やっと我の出番だ!」


 天空から、レビアが急降下する。


 削僧が視線を向ける。

 だがその直前。


 空中に――海が出現した。


 巨大な水塊。圧倒的質量。

 視線が突き刺さり、内部で減衰していく。


 それでも――完全には止まらない。


「最初から読んでおる!」


 レビアの口元が歪む。


「貴様の挙動は……全て履修済みだ!」


 予視妖術。


 5億通りの未来分岐を同時観測し、最適解を選択する絶対演算。


(単層では抜かれる……ならば“反射”へ誘導)


「だから、私がここに居るんです」


[『構築妖術』構式(ビルド)


 水塊の後方――そこに現れる。


 数キロに渡る、巨大な鏡面構造。


 多層。多重。完全対称。


「その力……ご自身で受けてみては?」


 削除が水を抜け、鏡に到達する。


 一層目が削れる。

 二層目が消える。


 だが――三層目。


 角度が、僅かにズレる。


 反射。


 跳ね返った“削除”が、一直線に削僧を捉えた。


「神よ――」


 言い切る前に。


 その存在は、世界から消えた。


 痕跡すら残さず。

 まるで最初から――存在しなかったかのように。

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