第9話 それぞれの1ヶ月 ②
文化祭まで、あと十日。
校内はすっかり文化祭ムード一色だった。
廊下には各クラスのポスターが貼られ、放課後になるとあちこちから金づちを打つ音や笑い声が聞こえてくる。
二年D組も例外ではない。
「そっちの机、体育館から運んで!」
「脚立持ってきて!」
「テープ足りない! 職員室でもらってきて!」
クラスの中心メンバーはステージや装飾の指示を出し、教室中を走り回っていた。
「大竹、それ運んで!」
「石井、その段ボール開けて!」
「大森君、ガムテープお願い!」
「伊藤さん、この風船結んで!」
「小林さん、こっちの切り抜き貼って!」
「渡辺さん、このリボン結んどいて!」
六人は次から次へと雑用を頼まれる。
いや、頼まれるというより、半ば当然のように押し付けられていた。
誰も「ありがとう」とは言わない。
クラスの飾り付けを黙々と手伝い、机を運び、段ボールを片付ける。
放課後になっても、自分たちの班の準備は学校では一切しない。なんたって『下克上』だから。
六人は文句も言わず雑用をせっせとこなした。
本当の準備は、学校が終わってから始まるのだから。
そんなある日の昼休み。
教室の前方から、突然大きな声が上がった。
「えっ!?」
「ちょっと待って!」
「マジかよ!」
クラスの中心グループが、予算表を囲んで騒ぎ始める。
「どうかしたのかな?」
コバが小さくつぶやく。
近くにいたクラスメイトが苦笑しながら教えてくれた。
「ネット通販でさ。」
「『光る巨大ネオン看板』とか『大量のバルーンセット』とか、『映えそう!』ってノリで買いまくったらしい。」
「えぇ……。」
モリが思わず顔をしかめる。
「それで今日、食材の仕入れを計算したら……。」
その生徒は肩をすくめた。
「クラス予算、ほぼ使い切ってたんだって。」
教室の前では電卓を叩く音が鳴り響く。
「嘘でしょ!?」
「残金こんだけ!?」
「物販どうするんだよ!」
さっきまで楽しそうだった空気が、一気に凍りつく。
文化祭まであと十日。
このタイミングで、クラス最大の予算トラブルが発覚したのだった。
もっとも――。
六人はその騒ぎを横目に見ながら、運び終えた机を元の位置へ戻す。
「次は黒板の飾り付けお願い!」
また新しい雑用が飛んでくる。
物販は班ごとの対応。
だからクラス全体の食材費が不足しようと、六人のクッキー販売には直接関係ない。
六人は余計な口を挟まず、黙って自分たちに与えられた雑務をこなしていた。




