第7話 作戦会議 ③
「よし。」
イッチがスマホのToDoリストを見直す。
「ダンス、物販……。」
指でチェックを付ける。
「あと決めることは、衣装だね。」
「そこなんだよねぇ。」
ワッちゃんが頭を抱える。
「お金、かけられないよね。」
文化祭の予算は二千円。
クッキーの材料費を考えれば、衣装に回せるお金はほとんど残らない。
「できれば持ち出しは最後の手段にしたいよね。」
コバも現実的な表情になる。
「となると……。」
ワッちゃんが腕を組んだ。
「リメイクかな。」
「リメイク?」
タケちゃんが聞き返す。
「古着とか、家にある服とかを加工して別物にしちゃうの。」
ワッちゃんはさらりと言う。
「コスプレ界隈ではよくある方法だよ。」
「なるほど。」
イシイは感心したようにうなずいた。
「まずは。」
イッチがメモ帳を開く。
「どんな衣装を作るか決めないとね。」
「それなら決まってる。」
ワッちゃんは即答した。
「ダンスするなら、やっぱりアイドル衣装でしょ!」
そう言って、先ほど見ていたダンス動画をもう一度再生する。
画面いっぱいに映る、きらびやかな衣装。
光沢のある生地。
フリルや飾り。
ステージ映えする華やかなデザイン。
「……。」
男子三人は無言になった。
「これを着るの?」
モリが引きつった笑みを浮かべる。
「しかも踊るの?」
タケちゃんも乾いた笑いを漏らす。
イシイは額を押さえた。
「ハードル高すぎないか……。」
一方、女子三人も別の意味で固まっていた。
イッチが公式サイトのMV画面を見つめる。
「これかぁ、予算二千円じゃ絶対無理。」
「この生地だけでも結構するよね。」
コバも苦笑する。
ワッちゃんは腕を組んだまま動画を止めると、小さく息を吐いた。
「うん。」
「さすがに、このまま再現するのは現実的じゃないね。」
六人は改めて、文化祭の予算二千円という現実の厳しさを痛感するのだった。
重たい空気が流れる中、ワッちゃんが何かを思いついたように顔を上げた。
「ちょっと聞くけど。」
男子三人を見る。
「中学の制服って、まだ持ってる?」
「え?」
突然の質問にタケちゃんが目をぱちくりさせる。
「ある……と思うけど。」
イシイも首をかしげる。
「僕も押し入れにあるはず。」
モリが答えた。
「今すぐ家に確認してもらってもいい?」
三人はスマホを取り出す。
「それと。」
ワッちゃんは付け加えた。
「原型がなくなるくらい加工しても大丈夫かも聞いて。」
「原型って……。」
タケちゃんが苦笑する。
「そんなに切るの?」
「もしかしたらね」
ワッちゃんは真顔でうなずいた。
男子3人は言われるがまま家族へメッセージを送る。
店内には、スマホを操作する音だけが静かに響いた。
数分後。
「あ、返信きた。」
最初に声を上げたのはモリだった。
「『どうせ捨てるつもりだったから好きに使っていいよ』だって」
「うちも。」
タケちゃんがスマホを見せる。
『もう着ないし、好きにしなさい』
イシイも苦笑しながら画面を見せた。
『押し入れの奥にある。処分する予定だから構わない』
三人とも、答えは同じだった。
「よし!」
ワッちゃんはガッツポーズをした。
「これで一番大事な材料がそろう!」
「材料?」
イッチが首をかしげる。
「制服なんて、どうするの?」
ワッちゃんはにやりと笑う。
「制服を土台にして――」
一拍置き、胸を張って宣言した。
「アイドル衣装に仕立てるよ。」
「えぇーーっ!?」
男子三人だけでなく、イッチとコバまで驚きの声を上げた。
「制服がアイドル衣装になるの?」
「なるよ。」
ワッちゃんは自信満々にうなずく。
「コスプレ衣装って、一から全部作るより、元になる服をリメイクした方が早いことも多いんだから。」
ワッちゃんは胸をなで下ろした。
「でも、よかった~。」
「何が?」
モリが尋ねる。
「三人とも学ランで。」
ワッちゃんは笑顔で答えた。
「ブレザーだったら、ここまで自由にリメイクするのは難しかったかも。」
そう言うと、自分のバッグをごそごそと探り、小さなケースを取り出した。
中には金色のボタンや記章、飾り紐、ワッペンのようなパーツがぎっしり入っている。
「私がコスプレ用に集めてるミリタリーバッジや小物。」
「こんなに持ってるの!?」
イッチが驚く。
「イベントで必要だから少しずつ集めたんだ。」
ワッちゃんは得意そうに笑った。
「これが使える。」
「足りないものは?」
コバが聞く。
「足りないものは手芸店や百円ショップでそろえれば大丈夫。」
ワッちゃんは指折り数えながら説明する。
「金色の飾り紐とか、接着剤とか、装飾用のテープくらいかな。」
「そんなので本当にアイドル衣装になるの?」
タケちゃんが半信半疑で尋ねる。
「なるなる。」
ワッちゃんはスマホを取り出し、保存していた参考写真を表示した。
「こんなイメージ。」
六人が画面をのぞき込む。
「制服をベースにして――」
画面を指差しながら説明する。
「金ボタンに付け替えて、肩に記章を付ける。」
「胸には飾り紐を渡して。」
「太めのベルトを締めれば、一気に軍服っぽい雰囲気になる。」
「軍服……。」
イシイが思わずつぶやく。
「ステージ映えもしそう。」
イッチも目を輝かせる。
「しかも学ランがベースなら、型紙を一から作らなくても済むね。」
「そういうこと。」
ワッちゃんは満足そうにうなずいた。
「予算も抑えられるし、三人おそろいのデザインにもできる。」
男子三人は改めてスマホの写真を見つめる。
最初は「コスプレ」と聞いて抵抗があった。
しかし、画面に映るのは派手すぎる衣装ではなく、凛々しく洗練されたステージ衣装だった。
「……これ。」
タケちゃんがぽつりと言う。
「普通にカッコいいね」
「うん。」
モリも笑みを浮かべる。
「これなら着てもいいと思う。」
イシイも静かにうなずいた。
「ダンスするなら、このくらい映える衣装の方がいいな。」
その言葉を聞いたワッちゃんは、満足そうにガッツポーズをした。
「よし、決まり!」
男子3人も先ほどまでの不安そうな表情は消え、文化祭への期待を少しずつ膨らませ始めていた。




