第6話 作戦会議 ②
「よし。」
イッチがスマホを取り出し開く。
「今日決められそうなことは、全部決めちゃお。」
そう言って、新しく「文化祭 ToDoリスト」というページを作成した。
「まず一つ目。」
画面を見ながら読み上げる。
「ダンス。」
「これは男子チームに頑張ってもらうから、とりあえずOK。」
ワッちゃんがうなずく。
男子三人は苦笑いしながらも反対しなかった。
すでに覚悟は決めたのだ。
「次。」
イッチが入力を続ける。
「物販は何にする?」
その質問に、全員が考え込む。
「総予算二千円だから……。」
コバが指を折りながら計算する。
「コスパが良くて、大量に作れるものじゃないと厳しいよね。」
「しかも。」
モリが思い出したように言う。
「当日は学校内で火気厳禁だよね。」
「うん。」
タケちゃんもうなずく。
「だから、あらかじめ作り置きできるものじゃないと販売できない。」
「となると……。」
コバは少し考えてから、にっこり笑った。
「焼き菓子だね。」
五人の視線が集まる。
「クッキーとかパウンドケーキなら日持ちするし、個包装もしやすいよ。」
「なるほど。」
イッチはすぐにメモを取る。
「でも、型抜きクッキーって手間かからない?」
イッチが尋ねる。
「そうなの。」
コバはうなずいた。
「型抜きは生地を伸ばして、抜いて、余った生地をまとめて……って結構時間がかかるんだ。」
「じゃあ、何がいいの?」
ワッちゃんが聞く。
「絞り出しクッキー。」
コバは即答した。
「生地を絞り袋に入れて、そのまま天板に絞るだけだから効率がいいし、大量生産もしやすいよ。」
「しかも、ハート形とかに可愛くもできる。」
イッチが目を輝かせる。
「アイドルカフェにも合いそう!」
コバは照れくさそうに笑いながら、小さくうなずいた。
コバはメモ帳を手に取り、さらさらとイラストを描き始めた。
「でね。」
紙をみんなの方へ向ける。
「色は三色。」
ハート形のクッキーが三つ並んでいる。
「ココア、抹茶、いちご。」
「かわいい!」
イッチが思わず声を上げた。
「それを三枚セットで袋詰めして売ります。」
「アイドルカラーっぽくていいかも。」
ワッちゃんも身を乗り出す。
モリは現実的な疑問を口にした。
「でも、コスト的にはどうなの?」
「そこは大丈夫。」
コバは指を折りながら数え始める。
「用意するのは小麦粉、バター、卵、砂糖がメイン。バニラエッセンスとかココアパウダーなんかは、私が家で持ってるのを持ち出しするよ。」
「えっ、いいの?」
「うん。どうせ家にあるものだし。」
そう言って笑うコバ。
「買い出しは業務スーパーでまとめてすれば、かなりコストは抑えられると思う。」
そこまで話すと、コバはくるりと振り返り、カウンターの中でコーヒーカップを磨いていた伯父に向かって大きな声を出した。
「伯父さーん!」
「ん?」
「私の今月のバイト代、現物支給でいいよー!」
店内が一瞬静まり返る。
伯父は苦笑しながらため息をついた。
「なんだよ、お前。最初から俺を巻き込む気満々じゃないか。」
「当ったり前じゃん。」
コバは悪びれる様子もなく笑う。
「食品を売るのって許可とか衛生管理が大事でしょ?」
伯父は腕を組みながらうなずく。
「まあな。」
「だから、ここの厨房を使わせてもらって、伯父さん監修ってことにすれば万事OK!」
さらにコバは畳みかける。
「あっ、それと食品表示ラベルシールを印刷する機械も貸してね。」
「おいおい……。」
伯父は額に手を当てる。
「話がどんどん進んでるじゃねぇか。」
「えへへ。」
コバは舌を出して笑った。
そのちゃっかりしたやり取りに、六人は思わず吹き出す。
さっきまで重かった空気が、少しずつ明るく変わり始めていた。
伯父はコーヒーカップを棚に戻すと、六人のいるテーブルへ歩いてきた。
「話はだいたい聞こえてた。」
そう言って空いている椅子に腰掛ける。
「まず確認する。」
六人の表情が引き締まる。
「遊び半分じゃないんだな?」
「「「はい。」」」
今度は誰一人として迷わず答えた。
「クラスを見返したいって気持ちは分かった。でも、食品を売るってことは、お金をもらうってことだ。」
伯父の声は穏やかだったが、その言葉には重みがあった。
「お客さんは『高校生だから』なんて理由で味を甘く見てくれない。」
コバも真剣な表情でうなずく。
「中途半端なものは出さない。」
「その覚悟があるなら。」
伯父は六人を順番に見渡した。
「厨房は貸してやる。」
「本当ですか!?」
ワッちゃんが勢いよく言った。
伯父は人差し指を一本立てた。
「ただし、条件がある。」
六人は思わず姿勢を正した。
「衛生管理は俺の指示に従うこと。」
「はい!」
「それから、販売する前に試作品を作る。」
「試作品?」
イッチが聞き返す。
「ああ。」
伯父はうなずいた。
「見た目、味、焼き加減、袋詰めまで全部チェックする。合格が出るまでは売らせない。」
「なるほど……。」
モリがメモを取り始める。
「文化祭だからって、手は抜けないってことですね。」
「その通り。」
伯父は満足そうに笑った。
「よし、それじゃ日程を決めよう。」
コバはスマホのカレンダーを開く。
「今週の土曜日なら、みんな予定空いてる?」
六人は順番に予定を確認する。
「俺、大丈夫。」
「僕も。」
「私も空いてる。」
全員の予定が一致した。
「決まり!」
イッチがToDoリストに書き込む。
・土曜日 喫茶店でクッキー試作会
その文字を見て、六人の表情に自然と笑みが浮かぶ。
文化祭まで、あと一か月。
ようやく六人の最初の一歩が決まったのだった。




