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文化祭! アイドルカフェを成功させろ!  作者: 小兎


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第26話 文化祭2日目 ⑧

時間は、15:00。


 ラストステージ。


 この二日間のすべてを締めくくる、最後の出番だった。


「ラスト!」


 ワッちゃんの声が教室に響く。


「5人全員でいくよ!」


 暗転した教室に、ネオンライトが走る。


 その中に現れたのは――軍服に身を包んだ五人の美形集団だった。


 黒と金。


 揃いの軍帽。


 飾緒が光を受けて揺れる。


 観客の息が、一瞬止まる。


 次の瞬間。


 スピーカーから重低音が弾けた。


 ――M!LK『爆裂愛してる』


 イントロの一撃で、空気が跳ねた。


 五人の身体が同時に動き出す。


 ズレはない。


 迷いもない。


 完璧なシンクロ率。


 185センチのタケちゃんの長い四肢が、風を切るように空間を支配する。


 小柄なモリは軽やかさでリズムを刻み、対照的な“抜け感のあるあざとさ”を見せる。


 イッチは指先の角度ひとつで視線を奪い、観客の呼吸をコントロールする。


 ワッちゃんは圧倒的な色気でステージ全体の重力を変える。


 そして――イシイ


 前髪の隙間から覗く視線だけで、空間の中心を固定する。


 誰もが無意識にそこを見てしまう。


 それほどまでに、全員の完成度が異常だった。


 これはもう“文化祭の出し物”ではない。


 ひとつの完成されたステージ作品だった。


 そしてサビ。


 《ば・く・れ・つ❤︎》


 その瞬間――。


 五人が一列に並ぶ。


 完璧な角度。


 完璧なタイミング。


 完璧な静止。


 カメラを構える最前列へ向けて、同時に顔を上げ


 ――微笑みかけた


 今まで感情を削ぎ落とした、冷徹な表情から一変。


 圧倒的な色気。


 熱の極限まで達した結果の、研ぎ澄まされた美だった。


「――ッ……!」


「無理……!」


「好きすぎて滅……!!」


 悲鳴が溢れる。


 最前列の女子生徒は涙を浮かべ、スマホを握る手が震えていた。


 誰も画面から目を離せない。


 呼吸すら忘れたまま、ただその光景に飲み込まれていく。


 そして最後。


 音が、バシッと弾けて止まった。


 五人が同時にポーズを決める。


 完全停止。


 静寂。


 一秒。


 二秒。


 そのあと――。


 2年D組の教室は、歓声と拍手に包まれた。


 壁が震えるほどの喝采だった。





16時00分。


 一般公開は終了し、最後の客が教室を出ていく。


「ありがとうございましたー!」


 5人の声がそろう。


 そのまま引き戸が、ガラガラと閉まった。


 静寂。


 一気に世界が切り替わる。


 さっきまで歓声と音楽で満ちていた空間が、急に現実へ戻った。


 そこに残ったのは――。


「……動けない……」


「指一本、動かしたくない……」


 イシイは机に突っ伏したまま、ほとんど溶けていた。


 タケちゃんとモリは床に座り込み、天井を見上げている。


 呼吸だけが、やけに大きい。


 ワッちゃんとイッチも、机に顔を伏せたまま微動だにしない。


 魂が一度どこかへ行ったまま帰ってこない状態だった。


 コバだけが、スマホを握っていた。


「……やば。」


 徹夜明けの目をシパシパさせながら、撮影した動画を確認している。


「これ……マジでこの再生回数……?」


 その時だった。


 カツ、カツ。


 廊下から足音が近づいてくる。


 ゆっくりと、しかしはっきりとした音。


 全員が、ほぼ動けないまま視線だけをそちらへ向ける。


 引き戸が開く。


 そこに立っていたのは――。


 Aチームの陽キャグループ。


 そして、その後ろにいたのは、いつの間にか集まっていたクラス全員だった。


 空気が一瞬で変わる。


 さっきまでの疲労感すら、その場の緊張に飲み込まれた。


「……あのさ。」


 陽キャ女子のリーダーが、気まずそうに髪をいじりながら口を開く。


 目は合わない。


 どこか言葉を探しているようだった。


「うちらさ。」


 一度、息を吸う。


「Fチームのダンス見て……マジでびびった。」


 その言葉に、教室が静まる。


「SNSでもさ。」


 スマホを少し持ち上げる。


「2Dに、正体不明のイケメンアイドルいるって、トレンド入りしてて……」


 小さく笑うような、困るような顔。


 陽キャ男子も一歩前に出た。


 床に座るタケちゃんたちを見下ろすのではなく、同じ高さで見ようとしている。


「……悪かった。」


 短く、しかしはっきりと。


「お前らのこと、地味だからってバカにして。」


「捨てシフトとか言って。」


 一度、言葉を切る。


「……お前らマジで凄すぎた。」


 その一言は、飾りのない事実だった。


 誰も茶化さない。


 誰も笑わない。


 ただ、教室全員がその言葉を受け止めていた。


 沈黙の中で――。


 机に突っ伏していたワッちゃんが、ゆっくりと顔を上げる。


 目の前には、クラスメイトたち。


 その全員をまっすぐ見て、少しだけ口角を上げた。


 そして、静かに言った。


「ヲタクの本気、舐めんな」


 その一言が、夕暮れの教室に落ちる。


 不思議なほど静かで、でも確かな熱を持っていた。


 カーストとか、予算とか、立場とか。


 そういうもの全部を一度ひっくり返したあとに残ったのは、ただ一つ。


 同じ教室で、同じ時間を作ったという事実だった。


 こうして、2年D組の文化祭は終わった。

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