↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
文化祭! アイドルカフェを成功させろ!  作者: 小兎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/30

第25話 文化祭2日目 ⑦

カーテンの隙間から、ステージの光がわずかに漏れていた。


 その向こうで鳴り響く歓声と、重なり合うステップの音。


 男子三人は、舞台後ろに作られた控えスペースで休憩をとっていた。


 紙皿の上には、ココア・抹茶・いちごの三色ハートクッキー。


 それをモグモグと口に運びながら、ペットボトルのポカリを一口。


「……なぁ。」


 石井がぽつりと呟いた。


「俺たちの100倍うまくないか?」


 その目は完全に舞台の方へ固定されたまま動かない。


 タケちゃんが苦笑いを浮かべる。


「……うん。」


 一拍置いて、少しだけ視線を落とす。


「ヲタクって、敵に回しちゃダメなんだね……」


 モリがクッキーを咀嚼しながら、小さくうなずいた。


「というかさ。」


「敵とか味方とか以前に……」


 ステージから聞こえてくる歓声が一段大きくなる。


 ドンッ、と床を蹴る重いステップ。


 そのたびに、空気が震えているのが分かる。


「レベルが違う。」


 タケちゃんが真顔で言った。


 カーテンの隙間から見えるのは、ネオンに照らされた完璧なシンクロダンス。


 さっきまで自分たちが立っていたはずの場所が、別物の舞台に見える。


 モリがぼそっと付け足す。


「でもさ。」


「あれ、Fチームだよな?」


 三人は一瞬だけ顔を見合わせる。


 そして同時に、小さく笑った。


「……なんか、すごいことになってるな。」


 その言葉には、悔しさよりも先に、妙な納得が混じっていた。


カーテンの隙間から覗くステージは、もう“文化祭”という言葉では収まりきらない領域に入っていた。


 鋭い重低音のビート。


 ミリ秒単位で揃うステップ。


 翻る黒と金の軍服が、ネオンライトを切り裂くように舞う。


 ワッちゃんとイッチ。


 そこにいる二人は、もう普段のゆるいオタク女子の気配を一切残していなかった。


 髪をかき上げる角度。


 重心の移動。


 視線の固定の仕方。


 そして観客の心臓だけを正確に撃ち抜く“無”の表情。


 すべてが、何年も積み上げられた経験値そのものだった。


 画面越しに推しを見続け、イベント現場で踊り込み、コスプレでステージに立ち続けてきた“年季”。


 それがそのまま形になっていた。


「キャーーー!!」


「滅!! 好きすぎて滅!!!」


 教室が揺れる。


 悲鳴というより、ほぼ爆発だった。


 防音性の低い教室の壁が、本気で悲鳴に押されて震えている。


 その光景を、カーテンの隙間から見ていた三人は――言葉を失っていた。


「……俺たちさ。」


 石井がぽつりと呟く。


 胸元の金ボタンに指を触れる。


 それは彼女たちが徹夜で縫い付けてくれた、100円ショップのパーツだった。


「今まであいつらに、何させられてたんだろ。」


 冗談のようで、冗談じゃない声。


 タケちゃんは苦笑いを浮かべながらも視線を外さない。


「いや、させられてたっていうか……」


「一緒に作ってた、じゃない?」


 モリが残りのクッキーを口に放り込む。


 少し間を置いてから、ぼそっと言った。


「でもさ。」


「普通に……次元違うよね。」


 三人とも、もう一度ステージを見る。


 そこでは、ワッちゃんとイッチが観客の悲鳴を完全に支配していた。


 動きが止まるたびに、空気が爆発する。


 視線が交わるたびに、悲鳴が上がる。


 まるで“人間を壊すために設計されたパフォーマンス”。


 イシイは小さく息を吐いた。


 そして、ふっと笑う。


「まぁでもさ。」


 抹茶クッキーの最後の欠片を噛み砕く。


「あの二人があそこまで本気で繋いでくれてんだ。」


 視線はもう迷っていない。


「俺ら、この後のラスト枠――へばってる場合じゃねえだろ。」


 タケちゃんがすぐに続く。


「……うん。」


 ポカリを一気に飲み干す。


「120%でいこう。」


 モリも頷いた。


 軍服の裾を軽く叩く。


「じゃあさ。」


「こっちもさらに“気合い”、入れるしかないね。」


 三人の目に、さっきまでの疲れはもうなかった。


 代わりにあったのは、妙な高揚と、負けたままで終われないという静かな熱だった。


 カーテンの向こうでは、まだ歓声が鳴り止まない。


 その熱を背中で受けながら、三人は静かに次の出番を待った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。