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文化祭! アイドルカフェを成功させろ!  作者: 小兎


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22/26

第22話 文化祭2日目 ④



 第2被服室のドアが閉まると同時に、六人は一斉に息を吐いた。


「はぁ……。」


 さっきまで張りつめていた空気が、一気にほどける。


「とりあえず、支度しよう。」


 ワッちゃんの一言で、全員が昨日と同じように動き始める。


 メイク道具を並べる者。


 衣装をハンガーに吊るす者。


 机を寄せて即席のメイクスペースを作る者。


 誰も指示を待たない。


 この一か月で自然と身についた役割分担だった。


 そんな中、イッチがふとコバへ顔を向ける。


「そういえばさ。」


「うん?」


「なんで四人、一緒に来たの?」


 コバは「ああ」と思い出したように笑う。


「タケちゃんたちね。」


「今日の朝五時にお店へ来てくれたの。」


「え?」


 イッチが目を丸くする。


「昨日、クッキー足りなくなったでしょ?」


「だからラベル貼り、朝から手伝ってもらってた。」


 タケちゃんが照れくさそうに頭をかく。


「どうせ早起きするならって。」


「少しでも早く終わらせたくてさ。」


 モリも笑う。


「四人でやったら思ったより早かったよね。」


 イシイは黙ってうなずくだけだった。


 イッチは頬を膨らませる。


「言ってよ~。」


 少し拗ねたように笑う。


「そっちの方が水臭いじゃん。」


 部屋の空気が少しだけ和らいだ、その時だった。


 プルルルル……


 ワッちゃんのスマホが鳴る。


 画面には、


『委員長』


 の文字。


 ワッちゃんはすぐに通話へ出た。


「もしもし?」


『助けて~!』


 開口一番、委員長の悲鳴が飛び込んでくる。


『Fチーム何時からなんですかって、ずっと聞かれてるの!』


 教室の向こうが相当混乱しているのが声だけで分かった。


 ワッちゃんは時計を見る。


「そんなこと言われても……。」


 メイクはまだ始まったばかり。


 衣装もこれからだ。


「あと四十分はかかるよ。」


『お願い!』


 委員長の声がさらに切羽詰まる。


『とにかく早くお願い!』


 ワッちゃんは困ったように眉を寄せた。


「でも、シフトは?」


「私たちだって、ずっと出ずっぱりは無理よ。」


 電話の向こうで、一瞬だけ言葉が詰まる。


 そして――。


『そんなこと言わないで。』


『私たちも協力するから。』


 その一言だけ残して、通話は切れた。


 ツー、ツー、ツー……


 静かな電子音が、第2被服室に小さく響いた。


第2被服室に、しばらく沈黙が流れた。


「……どうする?」


 イッチが小さくつぶやく。


「どうするもなぁ。」


 ワッちゃんは苦笑いを浮かべた。


 委員長の切羽詰まった声が、まだ耳に残っている。


「……やるしかないよ。」


 ぽつりと口を開いたのはタケちゃんだった。


 イシイも肩をすくめる。


「もう逃げられないだろ。」


 モリも苦笑しながらうなずく。


「ここまで来たら、やるしかないよね。」


 三人とも顔は引きつっていた。


 昨日、たった三回の公演で笑顔の筋肉が悲鳴を上げたことを、身をもって知っている。


 それでも誰一人、「嫌だ」とは言わなかった。


「ありがとう。」


 ワッちゃんが短く礼を言う。


 するとコバが、大きな紙袋を抱えながら立ち上がった。


「じゃあ、私、クッキー持って先に行くね。」


「教室の段取りもしておく。」


「整理券、まだ残ってたよね?」


「うん、昨日の残りがある。」


「じゃ、それ使えるよう準備しとく!」


 そう言うと、コバは紙袋を抱えたまま、第2被服室を飛び出していった。


「急ぐよ!」


 ワッちゃんがメイク道具を広げる。


「タケちゃん、こっち!」


「モリ、次!」


「イシイ、その間に髪整えて!」


 昨日よりさらに手際がいい。


 無駄な動きは一つもない。


 三人の顔が次々と"ステージの顔"へ変わっていく。


 メイクが終われば、すぐ衣装。


 軍服風のジャケット。


 飾緒。


 徽章。


 軍帽。


 すべてが流れるような手順で仕上がっていく。


 三人が着替えている間、ワッちゃんがぽつりと言った。


「……三人だけで回すの、きついよね。」


 イッチもうなずく。


「だよね。」


「昨日、三回でヘロヘロだったもん。」


 二人は顔を見合わせる。


 ほんの数秒。


 何かを考えるように沈黙したあと――。


「……奥の手、出す?」


 ワッちゃんが小さく笑った。


 イッチの口元もゆっくり上がる。


「もちろん。」


 にやり、と笑う。


「こんなこともあろうかと、予習も復習もバッチリだよ。」


 その時だった。


「着替え終わったよ!」


 更衣スペースからタケちゃんの声が飛んでくる。


 二人は同時に振り返った。


「よしっ!」


 ワッちゃんが親指を立てる。


「バッチリ決まってる!」


「自信持って行こう!」


 イッチも笑顔で続ける。


「今日は私たち、先導できないけど……。」


「三人だけで教室まで行けるよね?」


「……え?」


 三人の表情が一斉に固まる。


「俺たちだけ?」


「マジ?」


「ちょっと待って!」


 三人とも見るからに動揺していた。


 そんな様子に、ワッちゃんは笑いながら軍帽を深くかぶせる。


「大丈夫。」


「軍帽を深くかぶって。」


 襟元を整える。


「胸張って。」


 肩を軽く叩く。


「前だけ向いて歩けば大丈夫。」


 イッチも背中をぽんと押した。


「行ってらっしゃい!」


 三人は顔を見合わせる。


 そして、小さくうなずいた。


「……わかった。」


 タケちゃんが息を吸う。


「頑張るよ。」


 さっきまでの不安そうな表情は少しずつ消え、代わりに覚悟を決めた顔つきへ変わっていく。


 三人は第2被服室をあとにした。


 その背中が廊下の向こうへ消えていくのを見送ると――。


 ワッちゃんとイッチは顔を見合わせる。


「じゃあ。」


 ワッちゃんが小さく笑った。


「速攻で支度しよう!」


「うん!」


 二人は同時に頷くと、慣れた手つきで何かの準備を始めた。









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