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文化祭! アイドルカフェを成功させろ!  作者: 小兎


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20/23

第20話 文化祭2日目 ②



陽キャグループの一人が、今度は少し口角を上げて笑った。


「それとさ、その売り上げ。」


 教室の空気がぴんと張る。


「これ、D組の文化祭の売り上げだよね。」


 わざとらしく肩をすくめる。


「元はと言えば、うちらがクラス費から予算出して、入り口のネオン看板とかバルーンとか買ったから客が来たわけじゃん。」


 周囲の数人もうなずく。


「お前ら、その看板の居抜きで乗っ取って稼いだんだから、その売り上げはクラス全員で共有するのが筋っしょ。」


 言葉は笑っている。


 だが、その視線は完全にFチームの売り上げを値踏みしていた。


「うちらのポップコーンの資材代、ちょっと足りなくなってるからさ。」


 一人が軽い調子で続ける。


「それ、一旦クラスの共通財布に戻してよ。」


「クラスの『打ち上げの焼肉代』にも回せるしさ(笑)。」


 教室のあちこちで、乾いた笑いが漏れる。


 しかし、ワッちゃんの表情は変わらなかった。


 静かに一歩前へ出る。


「ねぇ。」


 落ち着いた声だった。


「今、自分で言ったこと、ちゃんと整理できてる?」


「は?」


 ワッちゃんは淡々と続ける。


「『クラス費から予算を出して、入り口のネオン看板とかバルーンを買った』。」


「だから『その看板の居抜きで乗っ取って稼いだ』って言うんだよ。」


 陽キャ男子が言い返す。


 ワッちゃんは首をかしげた。


「その理屈、おかしくない?」


 一瞬、教室が静まる。


「Fチームも二年D組の一員だよ。」


「同じクラスなのに、なんで『乗っ取った』っていう表現になるの?」


 誰も口を挟めない。


 ワッちゃんはさらに続ける。


「もし本当に、『Fチームは別扱い』っていう理屈なら――」


 一呼吸置く。


「売り上げだけ『クラス全体のもの』って言うのも、おかしいよね。」


「……。」


「都合のいい時だけ『同じクラス』で、都合が悪くなると『お前らは別』。」


 ワッちゃんは相手の目をまっすぐ見た。


「その理屈じゃ、筋が通らないと思うけど。」


 教室は、水を打ったように静まり返った。


陽キャ女子のひとりが、ふと思い出したように口を開いた。


「それよりさ。」


 教卓へ近づき、爪先でトントンと床を鳴らす。


「手作りクッキーとか、あれ本当にいいの?」


 ワッちゃんとイッチを見下ろすように首を傾けた。


「既製品を売るように言われてなかったっけ?」


 口調だけは穏やかだった。


 一見すれば、確認しているだけにも聞こえる。


 だが、その目には別の色が宿っていた。


 ――違反を見つけた。


 そんな優越感が隠しきれていない。


「公立だし、保健所とか食品関係って結構うるさいって、最初のLHRで先生が言ってたよね?」


 周囲にも聞こえるよう、わざと少し声を大きくする。


「だから、うちらはちゃんとルール守って既製品のポップコーンを用意したわけ。」


 一拍置いて、口元をわずかに吊り上げた。


「それなのに、お前らが勝手に手作りしたクッキーなんか売ってさ。」


 "なんか"を強調する。


「もし食中毒でも出たら、二年D組全体の責任になるんだけど。」


 視線が教室中へ向けられる。


「そこまで考えてやってる?」


 その一言に、周囲の空気が揺れた。


「……あ。」


「そういえば。」


「手作りって大丈夫なの?」


「学校ってそういうの厳しくない?」


 中間層の生徒たちも顔を見合わせ、小さなざわめきが広がっていく。


 教室のあちこちから、不安そうな声が漏れ始めた。


 その反応を見て、陽キャグループは互いに目を合わせる。


 口元には、隠しきれない勝ち誇った笑みが浮かんでいた。


「はい、はい!」


 教室の外から、ひときわ明るい声が響いた。


「その質問には、私が答えるよ!」


 ガラッ!


 勢いよく教室のドアが開く。


 そこに立っていたのは、紙袋を抱えたコバ。


 その後ろにはタケちゃん、イシイ、モリの男子三人が並んでいた。


 Fチーム、全員集合だった。


 突然の登場に教室中の視線が一斉に集まる。


「え?」


「来ちゃった……。」


 イッチは思わず目を丸くした。


「来なくて大丈夫ってLINEしたのに。」


 苦笑しながらスマホを軽く持ち上げる。


 するとモリが肩をすくめて笑った。


「水臭いよ。」


 一歩前へ出る。


「ワッちゃん一人の問題じゃないでしょ。」


 穏やかな口調だったが、その声には迷いがなかった。


「これはFチーム全員の問題なんだから。」


「そうそう!」


 コバも元気よく手を挙げる。


 目の下にはうっすらと隈ができている。


 ほぼ徹夜でクッキーを焼いてきたせいか、妙にテンションだけが高い。


「物販担当は私なんだから!」


 胸を張って言い切る。


「食品関係のことなら、私がちゃんと説明する!」


 紙袋を机の上へ置き、教室をぐるりと見回した。


「じゃあ――」


 にっ、と笑う。


「説明していくね!」


コバは教卓の前まで歩くと、紙袋から数枚のクリアファイルを取り出した。


「じゃあ、説明するね。」


 さっきまでの明るい調子とは打って変わって、その口調は落ち着いていた。


「みんな、学校が手作りクッキーを簡単に売らせない理由って知ってる?」


 教室を見回す。


「食品の物販って、めちゃくちゃ法律が厳しいんだよ。」


 誰も口を挟まない。


「食品衛生法では、保健所の許可がない場所で作った食品を、不特定多数に販売しちゃダメって決まってるの。」


「だから、もし教室や自宅のキッチンで焼いたクッキーを文化祭で売ったら、その時点でアウト。もし食中毒なんて起きたら、学校の責任問題にもなっちゃう。」


 陽キャグループも黙って聞いている。


 コバはクリアファイルの一枚を掲げた。


「でも、私たちFチームがやった方法は違う。」


「クッキーは、保健所から『菓子製造業』の営業許可を受けている厨房で作ったの。」


「ここは私の親戚が経営しているお店で、私のバイト先でもあります。」


 そう言って、営業許可証のコピーを全員に見えるよう掲げる。


「クッキー生地を仕込んで、オーブンで焼くまでの、食品に直接触れる一番大事な工程は、普段からそのお店で働いていて、定期的な検便も受けている私が担当した。」


 続いて別の資料を取り出す。


「ほかのみんなに手伝ってもらったのは、焼き上がって完全に個包装された後。」


「食品表示ラベルを貼って、飾りのりぼんシール貼るだけ。」


「一切直接クッキーには触ってない。」


 教室の中が静まり返る。


「本当なら、この作業だけなら臨時の検便や衛生講習は必要ないの。」


「でも、『あとから何か言われたくない』って思ったから、Fチーム全員でちゃんと検便も受けたし、必要な衛生管理も確認した。」


 机の上へコピーを並べる。


「これが、その控え。」


「裏面に貼った食品表示ラベルには、製造者としてお店の名前、原材料、アレルゲン表示も全部載せてある。」


 実際のラベル見本を掲げる。


「つまり、私たちが販売したのは『教室で作った手作りお菓子』じゃない。」


「営業許可を受けた施設で製造された商品を仕入れて販売しただけ。」


「先生方には事前に営業許可証のコピーと、食品表示ラベルの見本を見せて説明してあります。」


「その上で、販売の許可をいただいています。」


 コバは資料を机に置き、教室全体を見回した。


 そして、にっこり笑った。


「――どう?」


「まだ何か問題ある?」

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