第19話 文化祭2日目 ①
翌朝。
文化祭二日目――一般公開日。
昨日とは比べものにならないほど、校舎全体が朝からざわついていた。
校門の外にはすでに人の列ができ始めている。
その熱量をまだ知らないまま、ワッちゃんとイッチは教室に向かう。
ワッちゃんとイッチが登校した時点で、まだ男子三人の姿はない。
「おはよう、今日も最後の時間担当だよね」
イッチが腕時計を見る。
「来るの早いね、男子はまだなんだ」
「昨日頑張ったからゆっくりしてるんじゃない?」
ワッちゃんはいつも通りの調子で答える。
しかし教室に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
昨日とは違う、明らかに“圧”のある視線。
「ねぇ。」
その声は、やけに近かった。
「これどういう事?」
振り返ると、同じクラスの陽キャグループ数人が立っていてスマホの画面を突きつけて来た。。
昨日までの余裕はない。
むしろ、どこか刺々しい。
「説明してくんない?」
言葉は軽い。
だが温度は低い。
一拍遅れて、周囲の視線も集まってくる。
ワッちゃんは一歩だけ前に出て、自然にイッチを半歩後ろへ下げた。
イッチは無意識にその影へ隠れるように動く。
(……やばい)
小さく息を飲む。
そして手元のスマホを、誰にも見えないように操作した。
グループLINE。
『緊急』
『集合場所:第2被服室』
『教室へは来ないように』
『敵襲あり』
送信。
既読が一気に増えていく。
イッチは顔を上げずに、ワッちゃんの背中だけを見ていた。
その間も、陽キャグループは視線を外さない。
「昨日さ」
「めっちゃ盛り上がってたけど」
「正直さ、あれ何?」
言葉は笑っている。
だが、笑っていない。
ワッちゃんは一瞬だけ目を細める。
「何って……」
軽く息を吐く。
「文化祭の出し物だけど。」
その一言で、空気がさらに張りつめた。
教室の中。
まだ何も始まっていないのに、すでに“戦い”の気配だけが満ちていた。
陽キャ女子は腕を組んだまま、一歩前へ出る。
「昨日さ」
声は低い。
「うちらのシフトの時は誰も来なかったのに、お前らの時間だけ意味わかんないくらい人が並んでたじゃん」
視線が鋭く刺さる。
「で、なんか勝手にお菓子売ってたよね?」
教室の空気が一段冷える。
「あれ、何?」
片足に重心を乗せ、わざとゆっくり言葉を続ける。
「クラスの出し物は『ポップコーン』ってことで学校に申請してあるんだけど」
一拍。
「お前らが勝手に違うもの作って売るの、普通にルール違反じゃね?」
周囲の空気がざわついた。
「先生にチクられたらD組全員の責任になるんだけど」
視線がワッちゃんとイッチへ集まる。
「どうすんの?」
沈黙。
その重さの中で、ワッちゃんは一度だけ瞬きをした。
そして、黒板の端に貼られたプリントへ目を向ける。
そこには、文化祭の正式資料が掲示されている。
「クラス出し物:アイドルカフェ」
ワッちゃんはその紙を指で軽く叩いた。
「まず、これ。」
落ち着いた声。
「クラスの出し物は『ポップコーン』ってことで申請してあるって話だけど」
軽く首を振る。
「そんなわけないじゃん」
イッチも横からプリントを指差す。
「ほら、これ見て。」
その下の行。
『各班にて物販・演出を分担すること』
「ここ。」
イッチは指先でなぞる。
「物販は各チームで用意ってなってるでしょ。」
一瞬、陽キャグループの言葉が止まる。
だが、すぐに別の男子が口を開く。
「でもさ、それってさ」
「勝手にやっていいって意味じゃなくね?」
空気が再び揺れる。
ワッちゃんは視線を上げる。
真正面。
「勝手に、って言うなら」
短く息を吐く。
「昨日のクラス全体の予算の使い方の方が、よっぽど“勝手”だったと思うけど」
静かに言い切った瞬間。
教室の空気が、ほんの少しだけ変わった。




