第16話 文化祭1日目 ⑤
特別棟を出た5人は、渡り廊下を抜けて本館校舎へ足を踏み入れた。
文化祭の熱気は最高潮。廊下は各クラスを巡る生徒たちで埋め尽くされ、あちこちから呼び込みの声が飛び交っている。
ワッちゃんは先頭で呼び込み看板を高々と掲げる。
「二年D組Fチームによるダンスパフォーマンスを、十五時から行いまーす!」
その声が校舎中へ響き渡った。
一番最初に反応したのは、近くにいた女子生徒二人組だった。
「えっ!?」
「ちょっと待って、誰あれ!」
その視線の先には、軍服風の衣装を身にまとった三人。
今日ここに居るなら同学生なんだけど、キリッとした軍服に軍帽で雰囲気が変わっていて誰だか分からない。
「ヤバ……。」
「なにあのビジュ! カッコよ!」
その声を聞いた別のグループも足を止める。
「何?」
「どうしたの?」
「あっち見て!」
廊下を歩いていた生徒たちが、次々と振り返った。
スマートフォンを構える者。
友達の腕を引っ張る者。
教室から顔だけ出して様子をうかがう者。
ざわめきは、まるで波紋のように広がっていく。
「二年D組だって!」
「え、あの二年D組?」
「十五時からダンスだって!」
「絶対見に行く!」
ワッちゃんはその反応を横目に、さらに声を張る。
「十五時からでーす!」
「二年D組Fチーム、よろしくお願いしまーす!」
イッチも負けじとチラシを配る。
「よかったらお願いします!」
「ありがとうございます!」
チラシは面白いように減っていく。
受け取った生徒は、その場で友達へ見せる。
「これこれ!」
「一緒に行こう!」
すると、その友達もまた列へ加わる。
廊下を歩くたび、人が増える。
階段を下りるたび、人が増える。
曲がり角を曲がるたび、人が増える。
まるで雪だるまが転がるように、野次馬の集団はみるみる膨れ上がっていった。
「何の行列?」
「知らないけど、なんか始まるらしい!」
「とりあえず付いて行こう!」
目的も知らずに後ろへ続く生徒まで現れる。
まさにハーメルンの笛吹き男。
5人が歩けば人が付いてくる。
その様子を二階の渡り廊下から見下ろしていた生徒が思わず声を上げた。
「うわっ!」
「人、めっちゃ増えてる!」
「何あの行列!」
教室の窓から顔を出す生徒。
ベランダへ飛び出して見下ろす生徒。
校舎中の視線が、その奇妙な集団へ集まっていた。
「えっ、誰か芸能人でも来てるの!?」
「違う違う!」
「二年D組の出し物らしい!」
「マジで!?」
その一言だけで、さらに数人が列へ加わる。
もはや誰が最初の野次馬だったのか分からない。
笑い声。
歓声。
スマートフォンのシャッター音。
「見て見て!」
「ヤバい!」
「写真送る!」
そんな声が校舎中へ響き渡る。
そして六人が二年D組へ到着する頃には――。
後ろには百人近い生徒たちが列をなし、廊下はちょっとした人だかりの山と化していた。
まだ何も始まっていない。
ダンスも。
クッキー販売も。
それなのに、二年D組の前には、この日一番と言っていいほどの熱気が生まれ始めていた。
二年D組の前へ到着すると、ワッちゃんが立ち止まった。
「到着!」
三人は足並みをそろえて立ち止まる。
教室前には、いつの間にかできあがった長い人の列。
興味津々の視線が一斉に集まっている。
「みんな。」
ワッちゃんが小声でささやく。
「最後までアイドルだからね。」
三人は静かにうなずいた。
「せーの。」
ワッちゃんの合図で、タケちゃん、イシイ、モリの三人は観客へ向き直る。
腰から丁寧に一礼。
「よろしくお願いします」
笑顔で顔を上げると、今度は軽く手を振る。
「きゃー!」
「手振ってくれた!」
「やばい、かわいい!」
「センターの人、めっちゃイケメン!」
歓声が一気に大きくなる。
三人は最後にもう一度小さく会釈をすると、教室の中へ入っていった。
教室ではコバがすでに準備を進めていた。
「こっちはダンススペース。」
机を壁際へ寄せ、踊るための空間を確保する。
「観客はこちらでお願いしまーす。」
テープで立ち位置を示し、見やすく、そして安全に観覧できるよう動線も整えてある。
打ち合わせどおりの配置だった。
「三人とも、スタンバイお願い!」
「了解!」
一方、ワッちゃんとイッチは教室へ入らず、そのまま廊下へ残る。
この人数を一度に入れれば、教室はすぐに身動きが取れなくなる。
ワッちゃんは両手を軽く上げ、大きな声で呼びかけた。
「皆さん、ご協力お願いしまーす!」
ざわついていた廊下が少し静かになる。
「教室内が狭いため、二十名ずつご案内します。」
イッチも列の横へ回り、笑顔で案内する。
「ダンスパフォーマンスが終わりましたら、次の二十名をご案内します。」
「順番にご覧いただけますので、しばらくお待ちください。」
「押さないよう、ご協力お願いしまーす!」
「はーい!」
思いのほか素直な返事が返ってくる。
期待に胸を膨らませた生徒たちは、自ら二十人ずつの列を作り始めた。
ワッちゃんとイッチは顔を見合わせ、小さくうなずく。
すべては計画どおり。
あとは――幕を上げるだけだった。




