第15話 文化祭一日目 ④ 12:00第2被服室【衣装合わせ】
「じゃあ、私たちは廊下に出てるから着替えてね。」
ワッちゃんがそう言うと、イッチとコバも荷物を持って第二被服室を出る。
ガラリ、と扉が閉まった。
部屋の中では男子三人が慣れない手つきで衣装に袖を通す。
「これ、思ったより本格的だな。」
タケちゃんが鏡を見ながらつぶやく。
「ボタン留める位置、これで合ってる?」
「たぶん……。」
三人で確認し合いながら着替えを終える。
数分後。
「着替えたよー!」
扉の向こうへ声を掛ける。
「はーい。」
女子三人が部屋へ戻ってきた。
「私は先に教室へ行くね。」
コバがクッキーの入った段ボールを持ち上げる。
「前のチームから引き継いでおく。」
「お願い!」
ワッちゃんが親指を立てる。
コバが部屋を出ると、残った二人は男子三人の最終チェックを始めた。
「タケちゃん、ちょっとこっち向いて。」
ワッちゃんは肩章へ金色の飾緒を取り付ける。
肩から胸元へ流れる飾り紐が付くだけで、衣装は一気に華やかさを増した。
イッチは襟元を整える。
「襟章、少しだけ右。」
指先で数ミリ修正する。
「徽章も真っすぐ……よし。」
袖口を軽く払う。
小さな糸くずまで見逃さない。
「軍帽。」
ワッちゃんが帽子を手に取り、タケちゃんの頭へそっと乗せる。
「うん。」
つばをほんの少しだけ前へ傾ける。
「これくらい目深にかぶるとカッコいい。」
鏡に映った姿を見て、タケちゃん自身が思わず息をのんだ。
「……すご。」
そこにいるのは、普段の自分とはまるで違う。
ステージに立つためのアイドルだった。
「待って!」
ワッちゃんがバッグから一眼レフカメラを取り出す。
「せっかくだから撮らせて!」
「えっ、今!?」
「今!」
カメラを構えた瞬間、ワッちゃんの目の色が変わった。
「タケちゃん、帽子のつばを親指で軽く持って!」
カシャッ。
「そのまま目線だけこっち!」
カシャッ。
「顎もう少し引いて!」
カシャッ。
「左肩を前!」
カシャッ。
「右足を半歩引いて!」
カシャッ。
「今度は帽子を外して髪をかき上げて!」
カシャッ、カシャッ、カシャッ。
「はい、次!」
「壁にもたれて!」
「腕組んで!」
「笑わない!」
「今度は少しだけ笑って!」
「視線外して!」
「最高!」
次々と飛んでくるポーズの指示に、タケちゃんは完全に翻弄されていた。
「ワッちゃん……。」
イッチが苦笑する。
「完全にカメラマンモード入ってる。」
「だって!」
ファインダーをのぞいたまま、ワッちゃんは興奮気味に答えた。
「この衣装、このメイク、この光! 撮らないなんてもったいないじゃん!」
シャッター音が、第二被服室に心地よく響き続けた。
ワッちゃんが心ゆくまで男子3人を撮りまくって満足したのか、シャッター音がようやく止んだ。
第二被服室に静けさが戻る。
ワッちゃんはカメラのモニターを眺めながら、小さく満足そうな笑みを浮かべた。
「……よし。」
本当なら、まだまだ撮り足りない。
逆光でも撮りたい。
廊下でも撮りたい。
階段でも撮りたい。
頭の中には次々と構図が浮かんでくる。
だが、今日は文化祭本番だ。
「……我慢、我慢。」
名残惜しそうにカメラをケースへしまい込み、大きく深呼吸をする。
衝動をどうにか押さえ込むと、ぱんっと両手を叩いた。
「じゃ!」
五人を見回して笑う。
「出陣しますか!」
「おー!」
男子三人とイッチが力強く応えた。
ワッちゃんは手作りの呼び込み看板を手に取る。
ダンボールをベースにカラー模造紙を張りビラビラモールで縁どりし、ラメやカラーペンでデコレーションした、気合いの入った一枚だ。
その看板を高く掲げ、先頭に立つ。
後ろにはタケちゃん、イシイ、モリの三人。
自然と三角形になるよう隊列を組む。
軍服風の衣装に身を包み、歩調を合わせる姿は、それだけで人目を引いた。
そして最後尾にはイッチ。
両手には宣伝用のチラシ。笑顔で配れるよう、何度か表情を確認する。
「よし、準備完了。」
ワッちゃんが振り返る。
「目標は、十四時五十分までに一人でも多くの人へ存在を知ってもらうこと。」
誰も、まだ踊らない。
誰も、まだ正体を明かさない。
今の目的は――。
校内を練り歩きながら視線を集め、客をつかむこと。
5人は静かにうなずき合うと、第二被服室を後にした。




