第12話 文化祭1日目 ①
十月三十日。
待ちに待った文化祭初日。
この日は在校生のみが入場できる校内公開日だ。
朝から校舎はいつもとは別世界だった。
廊下には色とりどりの装飾が並び、生徒たちは思い思いの衣装に身を包んで歩き回る。
あちこちから呼び込みの声が響き、学校全体が祭りの熱気に包まれていた。
一方、その喧騒から少し離れた特別棟二階。
第二被服室。
ここが六人の秘密基地だった。
イッチが所属する手芸部の活動場所であり、事前に顧問の先生へ事情を説明して使用許可をもらっている。
クラスに用意された控え室は使わない。
余計な詮索をされたくなかったからだ。
部屋には衣装を掛けたハンガーラック。
裁縫道具。
メイク道具を並べた机。
そして、段ボールに入ったクッキーの箱がきれいに積まれている。
まるで、小さな舞台裏だった。
「本日分の物販30セット。明日の40セット」
コバが箱を開け、一つずつ数えていく。
「……OK。」
袋詰めされた三色ハートクッキーは、一つひとつラベルまで丁寧に貼られていた。
「釣り銭。」
モリがケースの中身を確認する。
「百円……。」
電卓をたたきながら数え終える。
「OK。」
イッチは衣装をもう一度チェックし、糸のほつれがないかを確認する。
「うん、大丈夫。」
ワッちゃんは鏡の前で腕を組んだ。
「男子。」
「今日は学校の制服のままでいいよ。」
「え?」
タケちゃんが首をかしげる。
「着替えないの?」
「まだね。」
ワッちゃんは時計を見る。
時刻は午前八時四十分。
「私たちの担当は十四時五十分から。」
「それまでは制服で十分。」
「髪型とメイクは本番の直前にやるから。」
「了解。」
三人は素直にうなずいた。
文化祭当日とは思えないほど、六人は落ち着いていた。
焦る必要はない。
準備は、この一か月でやるだけやってきた。
あとは、その時が来るのを待つだけ。
「じゃあ。」
コバが紙コップにジュースを注ぎながら笑う。
「十四時五十分までは、のんびり文化祭を楽しもうか。」
「賛成。」
六人は顔を見合わせ、小さく笑った。
誰も知らない。
この静かな第二被服室で、その時を待っている六人が、数時間後に校内の話題を一変させる存在になることを。




