第一章:死んだ魚の目と、爆音の記憶
秋の冷たい風が吹き抜ける郊外の路上。使い古したギグバッグを肩にかけたダニー・フォックス(47歳)は、あてもなくトボトボと歩いていた。
かつて全米を席巻した伝説の爆音ロックバンド『レッド・ファング』のフロントマン——持てるすべての熱量をロックに注ぎ込んできたダニーだったが、時代の変化と自身の燃え尽き症候群によって表舞台から消え、「俺の人生……ここで終わりか……?」と無気力になっていた。彼は相棒のオズワルドに何も告げず、夜中に静かに姿を消したのだった。
ダニーが姿を消してから、数日が過ぎていた。
オズワルドの家は大混乱に陥っていた。ダニーの部屋からは彼の宝物である愛用のギターまで消え去っており、ただ事ではない事態にSOSを受けたかつての教え子(音楽教室の生徒たち)クロエ、ライナス、バートンが駆けつけていた。
「先生……どこへ行っちゃったのよ……」
クロエが頭を抱えると、オズワルドは静かにアルバムを取り出し、愛おしそうに撫でた。
「ダニーはね、夜中に一人で君たちが送ってくれた手紙を大切にしまっていたんだ。『クロエのやつ、相変わらず仕切りたがりだな』とか、『ライナスは難しいことばかり勉強して頭痛くしてないか』とか、みんなの近況を本当に嬉しそうに読んでたんだよ……」
「自分の心配しなさいよ、バカ先生……!」
バートンがふとダニーの机の上に目をやると、いつもそこに置かれていたはずの一冊のスケッチブックが消えていることに気づいた。そこには、バートンが描いた拙くも情熱溢れるデザイン画や自作の服を着た写真、そして教室時代の全員の集合写真がアルバムのように大切に貼り込まれていた。
「……先生、僕が渡したポートフォリオを持って行ったんだ。自分のギターくらいしか持って行かなかったのに……ずっと部屋に置いてくれてて、一緒に持っていってくれたんだ……」
クロエは目元を拭うと、すぐにバインダーを叩いた。
「全員、捜索開始! あの男を野放しにしておいたら、ろくなことにならないわ! 先生を捕まえたら、説教よ!」
◇
一方、ダニーが辿り着いたのは巨大な教会系シニア施設『グラン・ヒル』だった。
手入れされた綺麗な庭園には、多くのシニアたちが静かに佇んでいる。だが、その誰もが「人生の消化試合」をただ消化しているように見えた。その光景に無気力な自分を重ね合わせ、溜息をつくダニー。
その背後から、聞き覚えのある低い声が飛んだ。
「おい、おっさん。不審者じゃねぇなら、俺の職場の庭をジロジロ見てんじゃねぇよ」
振り返ると、介護スタッフの制服を着た青年が立っていた。大人になった元生徒のロイだった。
「ろ……ロイ……!?」
「げっ……ダニー!? なんでこんなところに……」
落ち込む元担任の肩を叩き、ロイは施設の中へと案内した。




