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君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます  作者: みみぢあん


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9話 婚姻無効


 私が置かれた厳しい現実と向き合い。まずは最初の一歩を踏み出そうと、避けては通れない面倒ごとに手を付けることにした。


 

「神官長様、ギリスさんと離婚するにはどうすれば良いでしょうか?」


 私が逃げ込んだ神殿の中でも、最も善行を重ねて徳が高く。経験豊かで王国法にも明るい女性の神官長様に相談すると……神官長様はニッコリ笑いさらりと言った。


「ああ、マリエルさん。それなら大丈夫ですよ、今ならまだ無効にできますから」

「えっ⁉ 無効……ですか?」

「はい」


 神官長様は鍵がついた戸棚から、私とギリスさんの署名が入った『結婚証明書』を出して来た。

 私の目の前でその証明書をビリビリと破くと、神官長様は近くにあったごみ箱にポイッ! と投げ込んだ。


「はい、これであなたの結婚は無効ですよ。マリエルさん」

「ええぇ⁉ 神官長様、それだけで終わりですか⁉」


『結婚証明書』は、婚姻の儀式をおこなった神殿が発行し。神殿から貴族管理局へ提出し、受理されてようやく貴族の結婚は正式に成立する。

(貴族管理局→出生、婚姻、死亡の届出など、貴族籍関係の管理をする王国の機関)


「結婚初日からマリエルさんは、モリダール家を出て別居していたでしょう? だから貴族管理局へこの『結婚証明書』を送るを、止めていたのです」


「『結婚証明書』を破っただけで、結婚を無効にできるのですか⁉」


 私が目を丸くしてたずねると。神官長様は人差し指を唇の前に立てて、シィ―――ッ……と言う。


「貴族管理局に出す前ですから、私の権限で何とかなります」


「まぁ、神官長様!」

(つまり本当はダメだけど、『今回は特別よ』……という意味かしら?)


 神官長様は私の耳元でヒソヒソと内緒話をする。


「初夜で夫が女神様の前で交した夫婦の誓いを、簡単に破ったのですから。婚姻無効にしても、何も問題はありませんよ。コレも女神カルミーン様のお導きですね」


 ──夫婦の誓いとは。

『妻を愛し、慈しみ、死が二人をわかつまで~』……などの、祭壇前で行う誓いの言葉のことだ。


 そこまで説明すると神官長様は不愉快極まりないと、鼻をフンッ! ……と鳴らした。

 私たちが初夜で交わした会話の内容を聞き、神官長様もギリスさんが大嫌いになったのだろう。


「婚姻無効についてギリス卿には、私から手紙を出しておきます。マリエルさんは何も心配しなくて良いですからね」


 今まで不幸な女性たちを神殿でたくさん保護し、自立するのを助けてきた神官長様は、実に頼もしい人物である。


「ありがとうございます。本当に何から何まで……お世話になってしまって……」


「いいえ。マリエルさんは昔から良く、孤児院の世話や慈善バザーを手伝って下さりました。あなたが今まで善行を重ねて、徳を積んだ結果ですから。気にすることはありませんよ」


「神官長様……」


 温かい腕で神官長様は私を慰め抱きしめてくれた。……何年も前に亡くなったお母様を思い出して、ホロリと涙が零れそうになった。


 お母様のお墓も、この神殿の裏の墓地にある。

 後で会いに行き、結婚に失敗して自立への道を歩むとお母様に報告しよう。





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