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君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます  作者: みみぢあん


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8話 セインの事情2


 私は元々、近衛騎士団に所属していた。


 ──だが、王立騎士団の年老いた騎士団長が……


『私の引退に備え次の騎士団長候補に、セイン・ガルフェルト侯爵を指名する。侯爵自身の類まれなる剣の技と誠実さ、部下たちの統率力など。彼以上に王立騎士団の団長職が相応しい騎士は他にいない』


 私は今の上司である老騎士団長に高く評価され。

 近衛騎士団から王立騎士団へ移籍して、老騎士団長から問題なくスムーズに団長職を引き継ぐために。

 ……まずは副団長に就任してから王立騎士団に慣れるため、数年の猶予期間を与えられた。

 

(望まれて移籍したとはいえ……)


 騎士団の運営方法の違いで最初は大変な苦労を味わった。タムワース男爵がいなければ、私の立場はもっと難しいことになっていただろう。


 副団長に就任した私に何かと助言をくれたのが、年上の部下だったタムワース男爵である。


 妻と離婚して母親を恋しがるガブリエルのことで悩んでいた私は、頼りになる人格者で元部下のタムワース男爵のことを思い出した。


「確か……タムワース男爵も夫人を病気で亡くして、幼い息子を抱えていたはずだ。騎士団を辞める時に双子の息子を育てるためだと言っていた。いつも屋敷で家族の(そば)にいたいから、騎士を辞めて領地の運営に専念すると……」


(母親がいない幼い息子を持つ父親同士。タムワース男爵にガブリエルのことで、何か助言をもらえないだろうか?)



 母親を失った幼い息子たちの父親、タムワース男爵に会いに行くと。助言をくれたのは意外にも父親の男爵ではなく。

 娘のマリエルだった。


「セイン様……乳母さんと一緒にうちにガブリエルさんを連れて来て下さい」

「んん? マリエル嬢、何か良い案があるのか?」


 私がたずねると。まだあどけなさが残る顔を、マリエルは恥ずかしそうに赤く染めてニッコリと笑った。


「ええ。セイン様、年が近い弟たちと遊ばせてみてはどうでしょうか。お母様の代わりは誰にもできないけれど。友達ならいくらでも作れるでしょう?」


 隣で聞いていた父親の男爵がうなずいた。


「なるほど。副団長、マリエルの言う通りかもしれませんよ。子供のことは私よりも、娘の方が良く理解していますから」


 私が見ている前でも、マリエルは弟たちの面倒を良く見ている。


「ふむ」

(……確かに。タムワース男爵の言う通り、幼い子供のことなら娘のマリエル嬢は頼りになりそうだ)


「私が学園で勉強している間は、お父様が一緒にいてくれますし。帰ってからは、私が弟たちと一緒にガブリエルさんにも勉強を教えても良いですし……」


 あまり裕福ではないタムワース男爵家では、家庭教師を雇う余裕などなく。父親と一五歳のマリエルが、学園に入学する前の必要な勉強を双子の兄弟に教えている。


 マリエルの助言に従い。私は乳母と一緒に息子のガブリエルを、タムワース男爵家で双子の兄弟と遊ばせた。

 ガブリエルはアッと言う間に元気を取り戻した。


 ……それどころか肌は健康的に日焼けしながら、少し年上の双子たちにくっ付いて野原を転げまわり。

 小さな擦り傷や切り傷が絶えないが、以前よりもガブリエルは活発な少年になったようだ。


(マリエルは私たち親子の恩人だ。幸せになってもらわないと困る)


 現在もタムワース男爵家とガルフェルト侯爵家の交流は、続いている。




 王立騎士団の執務室で、マリエルと出会った頃の想い出に浸り。思わず私は笑みを浮かべた。


「そう言えば……去年の誕生日にガブリエルはマリエルと私が結婚して欲しいと、女神に祈りを捧げていたな? ふふふっ……」

(あの時は本当に、ドキッ… としたなぁ……)


 私自身が十歳若ければ、マリエルに求婚していたかもしれないと。……そんな想像をしていたことを、息子に見透かされた気がした。


 初めて会った時、マリエルはまだ十五歳の少女だったが。今では成人して魅力的な女性となった。


 双子の弟たちやガブリエルの母親代わりを務めていただけあり、マリエルはあの若さにしては落ち着きがある。

 離婚した妻とは天と地ほどの差だ。


 たとえ実家が貧乏でもマリエルは私が知る女性の中で、私が思う理想の淑女だ。


「相手は完璧だが……さすがに私は求婚できない」

(それに私が良くても。マリエルには他に愛する男がいる。……私が求婚すれば彼女を困らせてしまうだろう)


 ……それに私は一度、結婚を失敗している。


「大きな恩があるマリエルには、何としても幸せになって欲しい」


(それにしても、相手はどんな男なんだ。私が知る奴だろうか? マリエルが愛する男のことが、気になって仕方がない。……クソッ!)


 私はイライラして。執務机の天板にコツッ、コツッ、と指先を打ち付けた。



 顔も知らないマリエルが愛する男に、私は嫉妬心を感じ。胸に居座るにぶい痛みを解消しようと……

 ハァ―――ッ……と大きなため息をつく。





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