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君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます  作者: みみぢあん


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7話 セインの事情


 私は『人を簡単に殺害できる剣を腰に下げている騎士は、誰よりも自分を厳しく制御しなければならない』 ──と、常日頃から考えている。


 だから『心は常に清らかであれ。そして自分の欲望を優先することは騎士の恥だと知れ』と、部下や同僚の騎士たちにも厳しく自分を律するよう要求した。


 結婚した妻にも、その厳しくて禁欲的な私の考えに従わせようとしたが。


「君も騎士の妻となったからには、周囲の者たちの模範となれるよう心掛けてくれ」

「模範だなんて……私はそのようなつまらないモノは嫌です」


「つまらないモノだって……⁉」

(この女の頭の中は空っぽなのか? これでは侯爵夫人の威厳も何も、得られないぞ)

 ハァ───ッ……


 妻は私の考えに同調せず、激しく反発した。そのせいで結婚当初から、私と妻はケンカが絶えることがなかった。


「……旦那様、私は騎士ではありませんわ!」

「騎士ではなくても、君は私の妻だ」


「あなたの言う通り、確かに私はあなたの妻です。それなら旦那様は自分の妻には、もっと敬意を持って接するべきだわ。私をあなたの部下のように扱うのはお止め下さい!」 


 妻はまるで私への当てつけのように。社交シーズンになると毎晩のように夜会へ出かけ、遅くまで遊び惚けた。

 そしてドレスや装身具、美食を楽しみ。ガルフェルト侯爵家の資金力を欲望のまま使い、贅沢の限りをつくした。


 とうぜん私はやりたい放題の妻に、圧力をかけて制限した。


「今後は公式行事以外の社交活動を一切禁じる!」

「何ですって⁉」


「君はガルフェルト侯爵夫人の自覚が無さすぎる。極楽鳥のように着飾って……君は自分が恥かしくないのか?」

(この女は人よりも強欲な質のようだ。結婚前にわかっていれば、妻にはしなかったのに)


「何て横暴な! 私は絶対に旦那様の言いなりにはなりませんから!」


 使用人をたくさん雇い入れている、裕福な貴族の婦人ならそれぐらいの贅沢は普通のことだが。ガルフェルト侯爵家は他家とは違い、厳格な騎士の家であり。立場がある。



「三日前の夜会で、君が独身の貴族たちと戯れていたと。私の上司の騎士団長から、直々に注意されたぞ」

「そ、それは……」


「私は、あれほど恥ずかしい思いをしたのは、初めてだ!」

(騎士の仕事で王都中を忙しく走りまわっている時に。その裏で妻が愛人と、浮気をしていたなんて……そのことを知らなかった私は、良い笑い者だ)


 高齢で引退間際の騎士団長でさえ、私の妻の裏切りを知っていたのに。

 妻に浮気された夫の私だけが、騎士団の忙しさのあまり自分の妻が愛人と遊びまわっていることを、知らなかった。


 妻をエスコートして夜会に出かけるヒマもなく。私は騎士団で忙しい毎日を送って来た。その弊害がこんなカタチで表れたのだろう。


 私が積極的に社交活動をしていなかったのも、運が悪かった。

 

「あなたが私を一人で夜会に出席させるから悪いのよ!」

「この社交シーズンが王立騎士団にとって、一番忙しい時期だと君も知っているだろう?」


 貴族を狙った強盗や貴族同士のケンカなどで、殺人事件の件数もいっきに跳ね上がる時期だ。……とても悠長に夜会になど出ていられない。


「ああ、もう嫌! これでは裕福な侯爵家に嫁いだ意味が無いわ」

「君は恥ずかしくないのか? 小さな息子に対して、罪悪感は無いのか?」


 息子の話を出したとたん、妻はフンッ……と鼻で笑った。


「跡取りを一人産んだから、私はじゅうぶん妻の仕事を果たしたはずだわ。セイン、あなたこそ妻の私に対して、夫の仕事をさぼってばかりで恥ずかしくありませんか?」


「……なんて恥知らずなんだ、君は!」

「私を幸せにできない、あなたが悪いのよ。あなたなんか地獄に落ちれば良いわ!」





 妻が私と離婚して侯爵邸を出て行った時は。……これで無駄な言い争いをしなくて済むと、どれだけホッとしたことか。


 ──だが。 

 四歳になる息子のガブリエルが、元気を失くしてしまったと。息子の乳母と執事に報告を受け。


「旦那様……ガブリエルお坊っちゃまが、今日も庭で泣いておられました」

「泣いていた? なぜだ」

「以前はこのようなことは、無かったのですが。奥様が去られて、寂しがっておられるのでしょう」


「そうか。あんな女でもガブリエルにとっては、たった一人の母親だからな。困った……」


 母親が侯爵邸から去り、元気をなくして落ち込んでしまった息子を育てるには……私はどうすれば良いのか途方に暮れた。


 

 妻と離婚する時は、たいして悩まなかったが。


 幼い息子のガブリエルのことを思うと。早まったか? と後悔した。





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